
- 1 ご挨拶編
- 2 王宮編
1 ご挨拶編
大臣 | 王子ーっ! 王子はどこへ行かれましたーっ! |
王子 | なんだ騒々しい! 王子ならここにいるではないか! |
大臣 | おお、こんなところに! |
バカ王子 | そしてここにも! |
大臣 | これはこれは、バカ王子もいらっしゃいましたか! |
カニ | カニもいるカニーっ! |
大臣 | これはこれは……カニも……? |
バカ王子 | カニ。 |
大臣 | 解せませぬ。 |
カニ | 解せぬ? なにがカニ? |
大臣 | 王子、バカ、ここまではわかりまする。 |
バカ王子 | 王子までつけてね、一応。 |
大臣 | カニは解せませぬ。 |
王子 | 困るなぁ、大臣。そんなことではー。 |
大臣 | そう言われましても、カニなど聞いておりませぬ。 |
バカ王子 | タイトルにもあるだろう? 王子、バカ王子、カニって。 |
王子 | むしろいないのは大臣じゃないか。 |
大臣 | そ、それは! |
バカ王子 | いまの大臣は、県大会へ向けて練習を仕切っていたのに、いざ発表されたレギュラーメンバーに入ってなかったサッカー部員のようだぞ。 |
大臣 | そ、その言い方はどうでございましょう。 |
王子 | 誕生日のプレゼント三人で選びにいこうねー、とか言ってたのに誕生会に招かれなかった友だちのよう。 |
大臣 | え、えぐられる……胸のキズがえぐられる……。 |
バカ王子 | アシスタント紹介のコマにじぶんだけ載ってなかった古参のアシスタントとか。 |
王子 | うんちくを語ったら専門家に突っ込まれてフォロワーといっしょにキレ散らかしてるアルファツイッタラーとか。 |
大臣 | わたくし、そこまで言われるようなこと言いましたでしょうか? |
カニ | ひとごとながらびくびくするカニ。 |
王子 | だけど安心しろ! 俺たちはそういうひとのココロを踏みにじるようなことは言わない! |
大臣 | いま言ったじゃないですか。 |
バカ王子 | たまにしか言わない。 |
王子 | ああ、ぜったいなんて言葉は嘘だからな。 |
バカ王子 | そう。たまに言う。 |
大臣 | じぶんに正直な王子たちだなぁ。 |
王子 | 俺、銀河英雄伝に登場したい。 |
大臣 | なんか脈絡もなく無茶なこと言ってるしー。 |
バカ王子 | 俺は十二国記がいい。 |
大臣 | 残念ながら王子様方! 登場する小説は選べないのでございます! |
カニ | カニはべサイユのばらに出たいカニ。 |
大臣 | カニまで。 |
王子 | ベルばらにカニは出ねぇぞ。 |
カニ | マリーアントワネットのリボン役でいいカニ。 |
大臣 | でいい? でいいとはなにごとでございますか。 |
王子 | で、だれから脱線したんだっけ? |
バカ王子 | ええっと、大臣の「解せませぬ」あたりから。 |
大臣 | わたくしのせいでございますか? |
王子 | ちなみに、王子、バカ王子、カニ、というタイトルながら、表紙にカニがいない。なぜだかわかるか? |
大臣 | えー……それは……お誕生会に招かれていないから! |
カニ | ドキッ! |
王子 | ひどいなぁ、よくそんなことが言えるなあ! |
大臣 | わ、わたくしとしたことが、つい! |
バカ王子 | 相手はカニとはいえ人間なんだぞ!? |
大臣 | あの、それはちょっとわかりかねます。 |
王子 | で、話を戻すとじつはこの表紙、ジュエルセイバーというフリーの素材をお借りしているんだが……残念ながら……ア~ハァ……カニがなかった。 |
大臣 | 途中の無意味な吐息はなんでございましょう。 |
バカ王子 | HPはこちら。 http://www.jewel-s.jp/ |
大臣 | たしかに! カニはおりませぬな! |
カニ | しょんぼりカニ。 |
王子 | しかし安心するがいい、カニ! |
カニ | カニ? |
王子 | 巷で有名なナカニッチ画伯に1万円でカニを描いてもらった。 |
カニ | なんと! まことカニ~! |
大臣 | ナカニッチ画伯? はて、どなたでございますかな? |
バカ王子 | 詳しいことは知らん。ツイッターでギャラ1万円、消費税込み1万1千円で早いものがちで募った。 |
大臣 | 早いもの勝ち! そんなリスキーな方法で! |
王子 | バカ王子のアイデアだ! |
大臣 | さすがはバカ王子! ジジィのプリウスなみの行動力! |
バカ王子 | これを見ろ! |

カニ | すごいカニ! |
王子 | (ここにナカニッチ画伯の絵を見た王子の感想が入ります) |
バカ王子 | (同、バカ王子) |
大臣 | 王子様方! テンプレートがそのまま流されておりますぞ! |
王子 | めんどくせぇ。 |
カニ | ひどい! ひどいカニー! |
❡
王子 | と、そんなわけで今回はチャットストーリーシリーズの第二弾の登場だ! |
大臣 | 拍手! 拍手ですぞ皆様! |
バカ王子 | 『すさぶる王子バカ王子カニ』と第して、俺たちとカニ、ついでに大臣が様々な世界を飛び回る! |
大臣 | この大臣の扱い! 注目でございますぞ! |
カニ | チャットストーリーってのはなにカニ? |
王子 | こうやって地の文抜きにしてセリフだけで繰り広げる物語のことさ。 |
バカ王子 | ここだけの話、アタマの良いひとに好評なスタイルなんだ。 |
カニ | そうなのカニ!? |
王子 | そう! アタマの良いひとは地の文なんて読まないし、書かない。 |
バカ王子 | これから小説家を目指す皆さん、覚えておいてくださいね。地の文ってのは、あなたの自信のなさの現れなんです! |
カニ | だれに話しかけてるカニ。 |
バカ王子 | 池井戸潤も東野圭吾も地の文なんか書いてませんからね。 |
王子 | あれぜんぶ、編集者が勝手に足してるんですよ。 |
大臣 | 嘘ですぞ! 信じてはなりませぬぞ! |
バカ王子 | それで、具体的には俺たち、何をするんだっけ? |
カニ | しらんのカニ? |
大臣 | 王子様方にはこれより、大冒険をしていただきます! |
王子 | 大冒険!? |
バカ王子 | 大冒険というのは? |
大臣 | ダンジョンや宇宙や全寮制学園などのっ! 煌めくワールドをっ! 行ったり来たり! |
王子 | それはすごい! |
カニ | テンション上げ上げカニ! |
大臣 | ここは文字だけの世界! 言っちゃうだけでなんでもかなうのですぞ! |
王子 | 『ここは海の中!』――と言えば? |
大臣 | 海の中になってしまうのです! |
バカ王子 | ゴボボボボボ! おぼえう! おぼえう! |
カニ | わっはっはっは! カニは平気カニ! |
王子 | ここは大海原の海賊船! |
カニ | ざっぱーん! |
バカ王子 | 帆を上げろ、野郎ども! 全速力だ! |
王子 | 昭和48年の大晦日! |
バカ王子 | 歌は世に連れ、世は歌に連れ、歌い継がれてきた数々の名曲。 |
カニ | 締めを飾りますのは、この曲カニ! |
大臣 | 深夜のバラエティで紹介された温泉郷の㊙ディナーショー! |
大臣 | うわーっはっは! コンパニオンを呼べーい! 今宵は無礼講じゃぁっ! |
王子 | …… |
バカ王子 | …… |
大臣 | 乗ってくだされーっ! 老人を見捨てないでくだされーっ! |
❡
バカ王子 | 王子、バカ王子ときたら、あとはお姫様だ! |
王子 | というか、なんでカニなんだよ。 |
カニ | 知らんカニ。 |
大臣 | ご安心めされよ! お姫様もおられますぞ! 少々お待ちくだされ! |
王子 | おおっ! 大臣が舞台袖に!? |
??? | 王子様方~っ! |
カニ | そして舞台袖から王子を呼ぶ声がするカニ! |
王子 | 期待していいんだな! |
姫 | まさか置き去りにされるとは、この姫、一生の不覚にございます! |
王子 | 来たーっ! お姫様きたーっ! |
姫 | 姫もお仲間にお加えくだされ~っ! |
カニ | ていうか、大臣はどこに行ったカニ! |
王子 | おいカニ! ここは文字だけの世界だ。野暮ったいことを言うな。 |
バカ王子 | だ、だよな。口調が大臣っぽいお姫様だ。間違いない! |
カニ | すごい胆力だカニ…… |
王子 | 姫っ! |
バカ王子 | さあ! ふたりの間にっ! |
姫 | 王子様方ふたりに愛されるなど、このわたくしめ、至上の悦び! |
王子 | ああ……かぐわしき整髪料の香り…… |
バカ王子 | ホクロから伸びる長い白髪…… |
カニ | どう見ても大臣カニ…… |
姫 | ああ……王子様方の吐息がこんなに近くに…… |
カニ | 大丈夫カニおまえら。 |
王子 | …… |
バカ王子 | …… |
王子 | 貴様っ! 姫ではないなっ! |
バカ王子 | 正体を現せっ! |
??? | ぬはははは! バレてしまっては仕方がない! わたくしめは大臣! せっかくだから股間も生で見ろーっ! |
王子 | うわーっ! |
バカ王子 | それだけはやめてくれーっ! |
カニ | ち、ちらっと見えたカニ! わし、ちらっと見たカニ! |
大臣 | わーっはっはっは! 当国の姫君の股間は三国一の股間でござるじゃあああああっ! |
バカ王子 | あっ……でも、待てよ…… |
王子 | どうした、バカ王子? |
バカ王子 | ワンチャン股間だけお姫様って可能性がある。 |
王子 | それだ! |
カニ | いや、そうだったとして、それ、嬉しいカニ? |
王子 | じゃあ、せーので見てみよう! |
バカ王子 | よーっし、行くぞ…… |
王子 | せーのっ! |
大臣 | 大臣タイフーン! |
王子 | わーっ! 回ってる回ってる! 何かが回ってる! |
バカ王子 | か、風がっ! 饐えた臭いの風がっ! |
カニ | わしも巻き込まれてるカニーっ! |
❡
バカ王子 | わかった。俺わかった。このカニがお姫様。 |
王子 | それだ! |
カニ | わ、わしカニ? |
バカ王子 | このフンドシを剥がすとお姫様が出てくるんだハァハァ。 |
カニ | や、やめるカニィ……! |
王子 | ほーら、めくれてきためくれてきた。 |
バカ王子 | さっきのお姫様が入ってるぞ、ここに…… |
カニ | やめるカニ! さっきのお姫様はおまえらの妄想カニ! |
大臣 | そうですぞ! そのような行為、コンプライアンスに反しますぞ! |
王子 | コンプライアンスだと!? |
カニ | あ、きゅ、急にどうしたカニ? |
バカ王子 | 俺は! |
王子 | 俺たちは! |
バカ王子 | 作品ではめいっぱい配慮してきた! コンプライアンスにも! ポリティカルなんたらも! |
王子 | だけどそんなことしたって、読者が増えないないんだよぉぉぉぉぉっ! |
カニ | 著者の代弁カニ? |
バカ王子 | どんなにフェミニズムに気を使ってもフェミニストは読んでくれねぇんだぁぁぁぁぁぁぁっ! |
大臣 | おいたわしや王子! バカ王子! |
バカ王子 | それに比すればオタクのなんと御しやすく素直で愛おしいことか。 |
大臣 | 誉め言葉でひとを蔑んではなりませぬ。 |
バカ王子 | だから俺は―― |
王子 | 俺たちは―― |
バカ王子 | いま、この時点をもってコンプライアンスを卒業する! |
カニ | 卒業ってなにカニ? |
王子 | つまりそういうことだ、カニー。 |
バカ王子 | フンドシのなか見せろよカニィ! ハァハァ…… |
カニ | や、やめるカニ! カニのフンドシをハァハァ言いながら剥がすなカニ! |
❡
大臣 | というか王子様方、それではどちらがバカ王子かわかりませぬぞ! |
王子 | もはや外見が違えばそれでいい。 |
大臣 | その外見が、文字だけだと伝わらんのでございます。 |
バカ王子 | でも居酒屋に王子とバカ王子がいたら、どっちもバカにしか見えんと思うぞ。 |
カニ | 居酒屋に王子様はいないカニ! |
王子 | わからんぞ。お忍びでやってきた王子様がおぺにぺににジョッキぶらさげてぐるんぐるん回してるかもしれん。 |
カニ | ぶっちゃけそれはお忍びでやってきたバカ王子カニ。 |
大臣 | さよう! 国民からやり玉に上げられてしまいますぞ! |
バカ王子 | や、やり玉楽しそう! それってどうやるの? |
大臣 | な、なんと、バカ王子がようやくバカ王子らしい発言をっ! |
カニ | カニのフンドシをハァハァ言いながら剥がそうとする行為はバカではないカニ? |
大臣 | そ、それは……えー、どっちでございましょう? |
王子 | そういうことは王子である俺の一存で決める! |
カニ | なんでそうなるカニ? |
王子 | バカではない! |
大臣 | さすがは王子! 判断が早い!(CV大塚芳忠) |
王子 | ちょい待て、実名出すな。 |
大臣 | これでよろしいか?(CV大塚◯忠) |
バカ王子 | 今更?(CV花江◯樹) |
王子 | おいおいおい、おまえが持っていくのかよ、そこ。 |
カニ | これ、声優興味ないやつ見たら面白くもなんともないカニ(CV早見◯織) |
王子 | 待て待て待て。おかしい。おまえのそれはおかしい。 |
早見◯織 | これでいいカニ? |
王子 | てめぇ、カニ鍋にすんぞ。 |
花江◯樹 | あ、ちょっとまって。この隙にフンドシ剥がさない? |
王子 | その声で言うな。 |
早見◯織 | えっ? |
王子 | おまえも。 |
大臣 | 王子は意外と冷静であられる! |
王子 | こう見えても、まわりがはっちゃけるとうっかり冷静になってしまうタイプだ。 |
バカ王子 | わーっはっは! バカも休み休み言えよーって、この話、だれから始まったんだっけ? |
カニ | 王子からカニ。 |
バカ王子 | まーたあいつかぁ! 王子は節操ないよなー。 |
王子 | え? 俺? |
大臣 | こりゃあ、どっちが王子でどっちがバカ王子かわかりませんなぁ! |
バカ王子 | わーっはっは! |
王子 | と、最後にはぜんぶ引っ被される。 |
王子 | あれは俺が―― |
バカ王子 | 俺たちが―― |
王子 | まだ12歳の頃だった―― |
バカ王子 | 下の毛は生えたけど脇毛はまだ同級生でも生えてるか生えてないかという―― |
王子 | 乳首もコリコリと痛む頃―― |
大臣 | その描写、必要でございますか? |
バカ王子 | 駅前の鬼無里でしこたまホッピーを飲んで酔いつぶれたあの夜―― |
カニ | 12歳で飲んだらあかんカニ。 |
王子 | ホッピーは原液で飲めば未成年でも問題ない。 |
大臣 | 酔いつぶれていたというのは……? |
バカ王子 | 3Dゲーム酔だ。 |
大臣 | ならば念のためここは、『アルコール度数1%未満の炭酸飲料ホッピーを原液のまま飲んで3Dゲームで酔って倒れていたとき』と言ってください。 |
王子 | それは任天堂のひとがそう言っているのか? |
大臣 | 任天堂は関係ありません。余計な名前を出さないでください。 |
王子 | ジョッキのなかの焼き鳥串を落とさずにジョッキをくるくるさせまショ~ッ! |
バカ王子 | いよっ! 日本一! |
王子 | わーっはっは! 本邦の王子はとんでもないバカ王子だ! |
バカ王子 | ああ、隣国にも誇ろうぞ! |
王子 | ……と、無謬な誹りを受けて、俺は! |
バカ王子 | 俺たちは! |
王子王子 | 分裂してしまったんだぁーっ! |
大臣 | な、なんとおいたわしや! |
王子 | しかし! |
バカ王子 | じぶんでもたまに、どっちが王子でどっちがバカ王子か―― |
王子÷2 | わからなくなるんだぁーっ! |
大臣 | そこは割り算ではありませぬぞーっ! |
2 王宮編
大臣 | 王子ーっ! 王子はおられませぬか、王子ーっ! |
王子 | なんだ騒々しい! ここにおるではないかっ! |
大臣 | おお! こんなところに! |
王子 | 今日はなんだ? 剣術か? 読み書きか? それとも……あ・た・し? |
大臣 | ヴァイオリンのお稽古のお時間でございます! |
王子 | 大臣っ! |
大臣 | なんでございましょう? |
王子 | 王子がボケたらちゃんと拾え! |
大臣 | ハハッ、わたくし、とんと気が回りませんで、それでは失礼して…… |
大臣 | しょうがないなあ。王子はいつもそれだ、フフッ。ベッドは遠すぎる。ほら、ここで服をお脱ぎ。いい子だ。おやおや? 朝方鼠径部に貼っておいた理研のふえるワカメちゃんがもうこんなに……今日はいい味噌汁が飲めそうだ。赤出汁~白味噌~ホテルの~小部屋~…………って、王子! |
王子 | ごめん。ふえるワカメちゃんで引きすぎて無理だった。 |
バカ王子 | 大臣っ! 大臣はいるかーっ! 大臣ーっ! |
大臣 | こ、これはバカ王子! ここにひかえてございます! いったいなんの御用で? |
バカ王子 | なんの御用でではないっ! バカ王子が呼んだらボケろ! |
大臣 | バ、バカ王子にはボケでございますか……ええっと……今日はなんの御用でしょう? 絵本を読んで欲しい? 隣国を侵略したい? それとも…… |
バカ王子 | 飽きた! |
大臣 | ボケる前に飽きるな、このバカ王子ーっ! ええい王子などもったいないわ、このバカッ! バカァーッ! 大バカがぁーッ! |
バカ王子 | ごめん。そろそろやめて。 |
カニ | カニも来たカニーッ! |
王子 | ところで大臣、何か用があったのではないか? |
大臣 | この騒ぎで忘れてしまいましたわ。 |
カニ | カニもいるカニーっ! |
王子 | はっはっは! 自分で起こした騒ぎで用を忘れるとはそそっかしい! |
大臣 | はたして自分で起こした騒ぎでございましたでしょうか? |
バカ王子 | それはそうと、いつの間にか王宮編が始まっているが、どこが変わったんだ? |
大臣 | そう! そこでございます! |
カニ | おまえら、カニのこと忘れてるカニ! |
大臣 | 王子様方にはめくるめく恋をしていただきます! |
バカ王子 | めくるめく恋! |
大臣 | この大臣自ら周辺諸国を巡り、見目麗しく育ちもよくポリコレ的にも問題のない姫を選んでまいりました! |
カニ | いつまで無視する気カニーッ! 悔しいカニーッ! |
バカ王子 | ポリコレ的にも問題がない! |
王子 | 要はおっぱいが過度に強調されていない、ということだな!? |
大臣 | さよう! ところがでございます! |
王子 | ところが!? |
大臣 | 乳首が4つあり、牛乳も出るのでございます! |
王子 | 大臣! わかったぞ! |
大臣 | さすが王子! 理解が早い! |
王子 | その姫は牛だ。 |
大臣 | ご明察! |
カニ | カニは気づいてたカニ! |
王子 | ……で? どうリアクションすれば良いのだ? |
大臣 | はて。 |
バカ王子 | とりあえず、どんな姫だ? そこを聞きたい! |
大臣 | さすがはバカ王子! 姫が偶蹄目だろうがお気になさらない! |
王子 | ああ、コイツのバカには俺もたびたび助けられている! 話を進めてくれ、大臣! |
大臣 | ははっ! 王子には選りすぐりのバカ姫を、バカ王子には選りすぐりの姫を選んで参りました! |
王子 | まってまって。 |
大臣 | なんでございましょう。 |
王子 | となりのバカには姫で、俺にはバカ姫なの? |
バカ | 王子をつけてくれ、王子を。 |
カニ | カニにはどんなカニが来るカニ? ねえ、カニは? |
大臣 | カニ殿にはカニ酢を買ってまいり申した。 |
カニ | お~、カニ酢があればわしの身も更に美味くなってモテモテカニ~って、んなことあるカニ~ッ! |
王子 | で? その姫様というのはやっぱりキレイで、優しくて…… |
バカ王子 | エロくて、純真で…… |
カニ | しゃりしゃりに解凍された…… |
王子 | カニ酢がよく似合う…… |
大臣 | どこかからタラバガニの話に差し替わっておりますぞーっ! |
カニ | カニ酢染み込ませてちゅーちゅーしたいカニ! |
王子 | 殻の継ぎ目から脇汗のように滴るカニ酢! |
バカ王子 | お、俺もちゅーちゅーしたい! |
大臣 | 牛乳が出ることもお忘れなく! |
バカ王子 | あ、そうだ、牛だった。 |
王子 | 牛かー。 |
カニ | せっかくカニ酢用意したのにどうするカニ。 |
バカ王子 | ここにカニ酢を持ったカニがいるぞーっ! |
カニ | ま、まずい! そうだ! 飲んでしまえばいいカニ! おおお! カニ酢が体に染み渡るカニー! 我ながら食欲をそそるこの美脚! しかしこれでは自ら墓穴を掘ってしまっているカニ! |
王子 | あ、でも、乳首4つあるってことは…… |
バカ王子 | 2で割り切って2つ余る! |
カニ | おまえら何振っても拾わないカニかーっ! |
バカ王子 | ふたりで牛乳を生でちゅーちゅーと! |
大臣 | なんとハレンチな! |
王子 | いや、しかし! 王子たるものが…… |
バカ王子 | 全裸で牛の乳房に吸い付いたとあっては、ファンからどう思われるか…… |
カニ | いつの間にか全裸になってるカニ。 |
大臣 | そうですぞ若! しっかりお考えめされよ。こっそり写真を撮られてネットに出たりした日には…… |
王子 | スクープ! 夜中に全裸で乳牛の乳に吸い付く王子とバカ王子! |
バカ王子 | 実録! これがキャトルミューティレーションだっ! |
王子 | ばばーん! |
❡
大臣 | そんな王子様方にお手紙が届いております。 |
カニ | さっきの話、オチてないカニーッ! |
王子 | おお! 読んでみよ! |
大臣 | 拝啓、王子様とバカ王子様。王子様方はシャンプーは何を使っていますか? わたしも王子様みたいなサラサラヘアーになりたいです。 |
カニ | ちゃんと落として先に進むカニーッ! |
大臣 | ここはわたくしからお答えいたします! |
バカ王子 | いよっ! 待ってました! |
大臣 | バカ王子はすみっコぐらしリンスインポンプシャンプー! |
バカ王子 | すみっコぐらしリンスインポンプシャンプー!? |
王子 | おまえが驚くな。 |
大臣 | 王子はフランスはアルザス地方の古式ゆかしいシャトーで年間三百本だけ作られる原産地呼称保護シャンプー『プリンス』の13年ものを使われております! |
バカ王子 | アルザス地方の古式ゆかしいなんたらかんたらの12年もの! |
カニ | 惜しいカニ! |
王子 | 我が王家が使用しているものはこのダブルカスク、すなわち二種の異なるシェリー樽で熟成させた最高級品! |
バカ王子 | す、すげぇ…… |
王子 | 黒スグリの実にも似たフルーティな香り。そのなかに、雨あがりの新緑の森を思わせるグリーンシダーのミドルノート…… |
バカ王子 | か、嗅ぎたい…… |
王子 | かまわんぞ。嗅いでみよ。 |
バカ王子 | ならば失礼して…… |
大臣 | わたくしめも…… |
王子 | まてまて。 |
カニ | カニも嗅ぐカニ。 |
王子 | カニまで。 |
大臣 | おお……たしかにフランスアルザス地方の香り…… |
王子 | わかるか? |
カニ | 雨上がりの森……枯れ葉に埋もれたナッツを思わせる香ばしさもあるカニ。 |
王子 | ほほう。そこまで嗅ぎ取るとは。 |
バカ王子 | 森を駆けるリスがところどころに施したマーキング…… |
王子 | バカ王子。おまえが嗅いでいるのは俺のおぺにぺにだ。 |
バカ王子 | おおっ! 言われてみれば! |
大臣 | わ、わたくしも王子様のフェロモン嗅ぎたいですじゃーっ! |
カニ | カニも嗅ぐカニーッ! |
王子 | や、やめろおまえらーっ! 下ネタから卒業しろーっ! |
❡
王子 | 俺、わかった気がする。大臣。 |
大臣 | なにがでございましょう? |
王子 | 王宮編って、とくに王宮でもなんでもないし、きっとこの先も全部そう。 |
大臣 | いえ、あの、それは。 |
王子 | このあと、冒険編とか避暑地編とかあるけど、こうやって三人でしゃべくって終わる。 |
カニ | カニを忘れてるカニ! |
大臣 | お恐れながら、王子。異論がありまする。 |
王子 | なんだ。言うてみよ。 |
大臣 | 王子様方が姫の話にちゃんと食いついていれば、王宮のきらびやかな恋の話になっていたのですぞ! |
バカ王子 | 確かに! |
カニ | 確カニ! |
王子 | あれ? いや、でも。姫っつーか、牛じゃん? |
大臣 | いやいや、カニが喋る世界ですぞ? 牛ならば間違いなくセクシーギャル! |
カニ | いちいち引き合いに出すなカニ。 |
王子 | そうなんだよなぁ。大臣のカニの扱いが、なーんかいじめっぽいよなぁ。 |
大臣 | はあ? いやいや、何をおっしゃいますやら。 |
カニ | 王子からの扱いもひどかったカニ。 |
バカ王子 | まったくだ、王子も大臣も、カニへの扱いがひどすぎる。 |
カニ | そうだそうだカニ! |
王子 | おまえに言われるとも思わなかったわ。 |
バカ王子 | 心外な物言いだな。よく聞け、王子。俺はこのカニ、本当はワタナベではないかと疑っている。 |
カニ | カニ? |
王子 | ワタナベ? どこのどのワタナベだよ。 |
バカ王子 | つまりは、こういうことだ。 |
カニ | いきなり結論から来る気カニ? |
バカ王子 | この物語の著者はワタナベをいじりたくてしょうがなかった。しかしこのご時世だ。ワタナベのパンツを剥がしたり使い走りさせたりすると問題がある。 |
大臣 | あるでしょうなぁ。 |
バカ王子 | そこで! 『ワタナベ』と書かずに『カニ』と書いた! |
王子 | なるほど、ブログに「男と住んでいる」と書くとファンがいきり立つ、そこでペットと言い換える。それと同じだな。 |
バカ王子 | 今日はペットのヒロくんとチューしてお風呂にはいりましたぁ~。 |
王子 | 写真は加工して犬っぽく見せるわけだな。 |
大臣 | 凄まじいIT技術ですな。 |
バカ王子 | ぶっちゃけセーラームーンのルナも、エースをねらえ!のゴエモンも……同棲中の男だ。 |
大臣 | バカ王子は当たり屋かなんかですか。 |
バカ王子 | ワタナベ! よく帰ってきた! |
王子 | おかえり! ワタナベ! |
カニ | わ、わしのことカニ!? |
王子 | ああ、今日からおまえはワタナベだ! ここは文字だけの世界! ワタナベだと言ったらもうワタナベだ! |
カニ | う、うれしいカニ! 人間になれたカニ! |
バカ王子 | さっそく焼きそばパンと缶コーヒー買ってこい! |
カニ | 買ってくるカニ! |
大臣 | 騙されておりますぞ! カニ殿ーっ! |
バカ王子 | 人聞きが悪いぞ、大臣。 |
大臣 | カニに対するあの仕打ち! あんまりではございませぬか! |
王子 | いやいや、よく考えてみよ大臣。ここは宮廷、俺たちは王子だ。 |
バカ王子 | そう! 大臣の目には中高生にありがちなイジメに見えるかもしれぬが、俺たちにとっては家臣に命じるのと同じ。 |
王子 | そう! もしこれと同じ行いをクラスメイトに行う不届きな中高生がいるとしたら、そいつは処刑だ。そのくらいの理性は持ち合わせている。 |
大臣 | はたしてそれは理性と呼べるものでしょうか。 |
カニ | ただいまカニ! |
王子 | 早かったな! |
カニ | メロンパンとしじみ汁買って来たカニ! |
バカ王子 | ゲロ吐くだろ、その組み合わせ。 |
カニ | ひどいカニー! |
バカ王子 | それにしてもワタナベ……懐かしいなぁ。 |
大臣 | バカ王子がしみじみと申されるとは。そのワタナベなるお方との間に、どんなことがおありなのですか? |
バカ王子 | そう、あれは俺がワタナベに女性用のパ……エプロンを買いに行かせたときのことだった。 |
大臣 | いま、何かを思いとどまりましたな? |
バカ王子 | バカ王子にだって、コンプライアンス的に晒せない過去があるんだ。 |
王子 | それで? 女性用のパンツはなぜ必要だったんだ? |
バカ王子 | パンツではない! エプロンだ! 投稿用の漫画の資料、ヒロインとサブヒロイン用に資料が必要だったのだ! |
大臣 | そ、想像では描けばよろしかったのでは? |
バカ王子 | 想像していたら……どうしても欲しくなった。 |
大臣 | というか、普通はヒロインとサブヒロインのパンツなど描きませんぞ。 |
バカ王子 | パンツではない! |
王子 | わかったわかった、エプロンね。続けて。 |
バカ王子 | 生真面目なワタナベは忠実屋練馬店の下着売り場で、ヒロイン・サブヒロインの性格を考えて30分ほど悩んだのちに、2着のエプロンを選んでレジに並んだのだ。 |
カニ | ワタナベ、えらいカニ! |
バカ王子 | ところが! ワタナベが手にしていたのは2着480円と2着580円のグレードの違うエプロン! |
大臣 | なんということでございましょう! |
王子 | 主任ー! このパンツ、組み合わせて売れますかー!? |
大臣 | 店中に響き渡るレジのおばちゃんの声! |
バカ王子 | パンツではないと言っておろう! |
カニ | わ、ワタナベのピンチカニ! |
王子 | 主任ーっ! このひとが女児用のパンツを買おうとしてるんですけど、主任ーっ! |
バカ王子 | あ、あの、580円払いますから! |
カニ | ああああっ! 辛い! 辛すぎるカニ! |
バカ王子 | そう。ワタナベはそんな苦難を乗り越え、買ってきてくれたのだ。パン……否! エプロンをっ! |
大臣 | そのワタナベというものの忠義! 見上げたものですな! |
カニ | そ、それで漫画はどうなったカニ!? ワタナベのおかげでちゃんと描けたカニ!? |
バカ王子 | 展開が浮かばなくてそのまま放置だ。 |
大臣 | それは凡庸な漫画投稿あるあるですぞっ! |
バカ王子 | そのとき、俺は悟った! エロ漫画を描くより、ワタナベを描いたほうが楽しいと! |
王子 | そういうことだ! ワタナベ! |
カニ | も、もしかしてカニの物語が始まるカニ? |
大臣 | へんな期待を持たせてしまってますぞ、バカ王子っ! |
バカ王子 | ああ! 次の章ではワタナベを名乗ってくれ、カニ! |
カニ | 名乗るカニ! |
大臣 | パ、パンツを会に行かされますぞ! |
バカ王子 | エプロンだと言うておろう! |
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