- 最初に
- 自己紹介
- この本を書いたきっかけ
- どんなことが書かれているか
- 主人公の個性
- 主人公とゲームシステム
- エスプリを効かすと受けない
- 仲間の鉄板パターン
- 進行役の主人公の相棒
最初に
こんにちは。井上信行です。 本日は、ゲームシナリオの本などを書いてみることにしました。 まずは序章として、①自己紹介、②この本を書いたきっかけ、③どんなことが書かれているか、についてお話させてください。 もちろん、そんなものなど読み飛ばして本編から読んでも良いのですが、『③どんなことが書かれているか』を読んでからでないと、「予想していたものと違う!」と憤慨されてしまわれるかもしれません。 まあ、そうなったところでしょうがないと言えばしょうがないのですが、ココロの準備はできると思います。 ――そうか、教則本じゃないのか。 ――マニュアルみたいに読めばいいわけじゃないんだな。 ――ここに書かれている経験談をふまえて、自分の創作活動に活かそう。 そんなココロもちで読んでいただければ、この雑多な情報も少しは実になるかと思います。 それから、教科書みたいに詰め込みばかりだと頭に入らないので、ところどころに息抜き用に水着のセクシーグラビアを挿入しました。ぜんぶで9枚あります。 「いやいやセクシーグラビアなんかどうでもいいんだよ、ゲームの話をしようよ」 と、おっしゃる方もおられるでしょうから、そこはわたくし、考えました。なんとこのセクシーグラビア、ココロのきれいなひとには弊社さよならおやすみノベルズの既刊本の紹介に見える魔法をかけておいたのです。 ですから、本編の途中で弊社既刊本の紹介が目に付きましたら、 「さすがわたし、ココロがきれいだから水着のグラビアがつまらない宣伝ページに見える」 と思っていただけたら幸いです。 こちらで紹介させていただいている本は、ゲームとはまた少し違うのですが、 「この井上信行って奴、偉そうに書いてるけど、どんな文章を書くんだ」 ――と、お思いになったときに手に取られ、 「なあんだ、この程度でもシナリオライターになれるのか」 とか、 「うわぁ、すげぇ! こんなところに天才がいた!」 とか、自由に感想を抱いていただければと思います。自己紹介
まずは自己紹介ですが、わたくしこと井上信行はゲームのシナリオライターです。 シナリオライターと言いながら、カットシーンの絵コンテを書くこともあれば、日がな一日パワーポイントのプレゼン資料をまとめていることもあれば、ひとが書いたシナリオをゲームのシステムに合わせて切り貼りしていることもあります。シナリオを中心に、割りと幅広く請け負わさせて頂いています。 さて、ではどんな業務を請け負っているかというと(ここはさすがに筆者に興味がないひとは飛ばしてください)、まずはシナリオです。これはだれにでもわかりますね。ストーリーの原案のようなものを書いて、偉いひとに読んでもらって、フィードバックをもらって修正して、それをゲームの仕組みに合わせてプロットに切り分けて、最後にセリフやト書きを書いて、更に場合によってはアフレコに立ち会い、そして場合によっては「これ、契約に入ってたっけ?」とか言いながら上がってきた音声ファイルにIDを振ってエクセルの表に打ち込むお仕事です。(普段そこまではやりません) シナリオと言っても、お話を書くばかりでなく、プロジェクトにもよりますがいろんな作業を延々やってます。 絵コンテを描くこともたまにあります。 じつはわたくし、成人後に就いた最初の仕事はアニメーターだった関係もあり、そこそこ絵が描けてしまうのです。それで絵コンテ要員がいなかったら、そこに回ることがあります。 ゲームの絵コンテはアニメの絵コンテと少し違っていて、ゲームの制作フローを知っていたほうがちゃんと描けるのですが、この制作フローもプロジェクトによって千差万別、絵コンテもそのひとの出身によって描き方に差があるという、けっこうカオスな世界が広がっています。 今回はシナリオ雑談ですからコンテの項目は設けていないのですが、まあ、雑談しながら触れるような気がします。 次にスクリプトです。プロジェクトによっては、あるいは海外のスタジオではシナリオのことをスクリプトと言うのですが、この場合はカットシーン用の簡易プログラムのことです。 いまはゲームのカットシーンはムービーを作るような形でシーケンスエディタという賢いツールで作るのですが、むかしは charactreA walk front 3; characterB action jump; などというプログラムで動かしていました。 わたくしの場合は、関数(三角関数や加速度等)を使ってエフェクトを動かすのが好きだったので、独自のエンジンを発注してはキャラクターをくるくる回して遊んでいました。 ちなみにわたくしの経歴紹介で、『ロマンシング・サガ(スクウェア・エニックス)の戦闘終了時にクルッと回転するポーズを作ったひと』という文章をたまに見かけますけど、あれ、 「バトルの後、くるっと回しましょう!」 「おお、いいね! ボーナス3万円!」 みたいなことが評価されたんじゃありませんからね? それを動かすための内部的な仕組みを考えて、そのスクリプトを打ったんですからね? まあ、それ以外はぼんやりとスクリーンセーバーを眺めていたんですが、それはさておき。そろそろこの話も飽きたと思うので次へ。他の話はまた別のところで書きますね。この本を書いたきっかけ
で、この本を書いたきっかけなのですが、つい最近、 『アニメーターの老後』 という、自分の半世紀を書いたようなエッセイっぽい自伝的小説を書いたのです。 起承転結を設けずに、思いついたことをダラダラと書くというコンセプトで、しかも仕事のあいまに書いていましたので、『絵コンテはこういうふうに書く』とか『画面のレイアウトはこうする』みたいなことをダラダラ書いてしまったのですね。 で、読み返してみるとそれがもったいないような気がして、これだったらまとめて本にしたほうが実りがあると思った次第です。 ちなみにこの本、どのプロジェクトでどんな目にあった――とか、だれそれへのあてこすりだ――とかは一切ありませんので、わたくしのお気楽なエッセイとして読んで下さいね。どんなことが書かれているか
で、この本に書かれているのは―― ああ、『きっかけ』の項目が妙に短いじゃないかとお思いでしょうが、きっかけなんて一瞬ですからね。でもこういう切り替え、あ、ユーザー飽きたな、って感じたら話題を変える、ってのも重要だと思います。 もっと読みたい! ってひとはまあ、別の著作を読んでもらえばいいし、ゲームにだってフレーバーテキストだったり、辞典類だったりいろいろあるわけですから、一つの話題を引っ張るよりは先に進みたいと思っています。 ――と、こんな感じの『思いついたことをダラダラと垂れ流したもの』が書いてあります。 と、そんなだらけたわたくしですが、じつはちゃんとした出版社から、ちゃんと出版された、ゲームデザイナーの教科書的な著作があります。 タイトルは『ゲームプランとデザインの教科書』だったと思います。 著作といっても共著ですから、担当部分はほんのちょっとしかないのですが、こちらの本もオススメです。この本とは違ってちゃんとロジックに沿って構成されたものですから、順番にしっかり学んでいけるはずです。ただし、少々お高いです。 一方、こちらの『たのしいゲームシナリオ入門』はどちらかと言えば副読本です。 ハウツー本ではなく『失敗の共有』や『ケーススタディ』に近いかたちになります。 たとえば、『全角アポストロフィ問題』などは、経験が少ないひとは知らないと思いますし、『ギャラの決め方』なんてのはそこそこの経験者でも気になる問題だと思います。このあたりはもう、ダラダラ垂れ流しならではだと思いますが、垂れ流しでしか味わえない生の情報を楽しんでいただけたら、あるいは苦労を共有していただけたら筆者も幸いに存じます。 くれぐれも、 「おまえの本読んでしまったせいでおれはゲームのシナリオライターの採用に漏れた」 なんてことを言わないでくださいね。 教科書じゃないってのはお断りしたとおり、というか、「これを読んだらゲームのシナリオライターになれる!」なんて本があったら、こちらが読みたいくらいです。キャリア長いのに、わりと簡単に仕事途切れるんです。仕事ください。本当に。 えー、そんなわけでみなさま。 覚悟はよろしいでしょうか。 ここまでで推定3500文字、全体の3%に相当します。 せっかく購入されたのですから、人生の時間を三時間ほど捨てるつもりでお付き合いしていただければと思う次第であります。 というわけで! いよいよ本編の始まりですが、はたしてあなたは、水着グラビア9枚中何枚が既刊本宣伝に見えるでしょうか!?主人公の個性
まずは主人公のお話から。 漫画や小説だとよく『個性的な主人公を』とか『共感できる主人公を』と言われますが、ゲームもそう……ではあるのですが、ゲームだと少し違うような気がします。 確かに主人公が凡人であっても困るのですが、ゲームの主人公ってのはプレイヤー自身でないといけませんし、多くのゲームでは主人公は喋りません。 喋らない主人公に個性を持たせるというのはかなり難しく、しかも選択肢も『はい・いいえ』くらいしかないとなると、主体的に物語を進めるのすらも難しくなります。 しかし、プロデューサーは無茶を言いますよね。 喋らせるな、かつ、主人公が自主的に行動しているように書け、って平気で言ってくるんですよ。 「このまま手をこまねいていたら、この村は侵略者の手に落ちてしまうわ」 「ハッ! 戦ったって全滅すんのがオチだ」 「となりの村を見たでしょう? あなたは一生奴隷として過ごすつもり?」 「知らねえよ。俺が死んだら、おっ母の面倒はだれがみるんだ!?」 「……たしかにそうだけど……ねえ、主人公、あなたは戦うわよね?」 「はい・いいえ」 いかがですか? この差し迫った状況のなか、『はい・いいえ』で主人公に主体性を感じさせることができるでしょうか。 しかも―― 「そうか、おっ母の面倒も村のみんなでみればいい、そう言いたいんだな?」 と、仲間が主人公の代弁までしてしまうんですよ。まったく、自主性もクソもねぇって感じですよね。 普通の指南書だったら、『この場合はこう書きます』という答えが書かれるのでしょうが、わたくし、いまだにこの答えを持ち合わせておりません。 ここで《村を救う》、《村を見捨てる》、という選択は主人公の個性を大きく左右するはずです。どちらを選んでも同じ性格です、なんてことはほぼありえないと思うんですよ。そういうゲームのなかでの主人公の個性ってのは、はたしてなんなんでしょうね。 いや、そうじゃない。村の危機に陥ったときにどんな行動を取るかは『主人公の人生観』であって、『個性』ではない――という逃げ道があるかもしれません。 主人公の人生観にはユーザーの人生観が反映される――というのはもう仕方がないこととして、個性の話をしましょう。 個性――個性とは? たとえば、会社に行く前にかならず喫茶店に立ち寄って、毎日1分だけ遅刻するとか? あ? いや、それも個性かもしれませんが、ちょっと違いますよね。 個性ってのは、そのひとにしかない、そのひとの特徴みたいなもので…… ――アルミホイルを奥歯で噛みしめるのが好き? いや、そうじゃなくて。 わたくし的には、主人公の個性に関しては、もう答えが出ていると考えています。 それは『ゲームシステムに依存する』で、概ね言い尽くせます。 たとえば探偵モノだったら『洞察力がある』などですね。 探偵で『ダンス好き』だとかに設定してもあんまり意味がないし、『お婆ちゃんっ子』だと、推理なんかせずにお婆ちゃんに話を聞きに行ったほうがぜったいに面白いですよね。 ……まあ、前者にしても、どんな難事件もダンスで解決するダンス探偵ってのも、ありと言えばありですが、そこまで吹っ切れてくれるプロデューサーがいるかどうか……。主人公とゲームシステム
個性はともかく、いずれの場合も共通して言えるのですが、主人公は嫌悪感を抱かないキャラクターにする、というのが大前提です。 たとえば少年漫画の主人公に、女性キャラにベタベタ触りがちなのがいますが、避けるべきでしょうね。たとえ原作でそうであっても、ゲームになったらプレイヤーがコントロールするのです。プレイヤー=お金を払ってくれたお客様を尊重すべきです。 「金のために魂を捨てるのか!」 と言われるのであれば、いいえ、魂を捨てるのではありません。捨てた魂を買うのです。買った魂で生き永らえさせてもらうために、お客様にご奉仕するのです。 ゲームのシステムに沿って、あるゲームでは『超能力でひとの心が読める』、あるゲームでは『精霊が見える』などを基本軸に立てて、そこから、じゃあひとの心が読めたらその主人公はどうなるのか、精霊が見えたらどうなのか、というのを組み立てるのが正攻法ではないかと思います。 そのためにはゲームのシステムを分析して、そのなかからテーマを見つけ出す必要があります。決して先にテーマがあるべきではありません。 もちろん、「俺は人類愛を描きたいんだ」というような作家としてのポリシーは大切ですよ。でもそれは、物語に隠れて見えない部分であり、見える部分、ユーザーが触れる部分のテーマは、ゲームそのものが持っているはずです。 そしてそれがタイトルになるはずです。 たとえば『思い出エスプリを効かすと受けない
ここでちょっと、些細な進言があります。 読者様のなかでも、エスプリの効いた小粋なテキストを書くひとがおられると思うんですが、基本的には受けませんね。エスプリは。 むかしはちょっとヒネリを効かせて斜に構えたものが受けていたのですが、最近はめっきり受けなくなりました。たぶん、わたくしたちの世代がやらかし過ぎたんだと思います。 もしかしたら制作者がユーザーと同世代だったら受けるかもしれません。 だけど描いてるひとが中年・老年のベテランライターだとわかってるようなゲームで、ユーザーの半分がぽかーんとするようなネタを披露されても「うわー、やられたーw」とはなりませんよね。腹が立つだけです。 なので、エスプリを武器にしてるひとは、気をつけたほうが良いですよ。よっぽど愛されて、常に世代の中心に寄り添っていれば別かもしれませんが、そうでもないとあっさり見捨てられる日が来ます。仲間の鉄板パターン
話題は変わって、こんどは主人公の仲間、パーティについてです。 パーティ構成には、シナリオ的な必勝パターンがあります。 それは……『熱血』『クール』『チート』の三人です。 熱血な仲間は 「さっさとしねぇと火山が爆発するって言ってんだよ!」 と、差し迫った現状を説明するのにうってつけです。 クールな仲間は 「だけどいま動けば敵の思う壺。罠にかかりにいくようなものよ」 と、立ちふさがる問題を語ってくれます。 あとはどっちの言い分を採用するか主人公に迫ってもいいし、次の展開に進めてもかまいません。 チートな仲間は、普段はなにもしないけどいざとなったら、なんでも可能にする爆発力を持っていて、事件の回収役、あるいは突破役、かき混ぜ役、なんにでも使えます。 普段はなにもしないのはどうして? というのは、たとえば3つ目の目が開いたときだけスペシャルパワーを使える、普段は自分に自信がなくてビクビクしている、強敵が現れないと本気を出さない、などなど、そこはひと工夫が必要になります。ただまあ、あんまり万能すぎると主人公食っちゃうので要注意ですけど。 古い漫画だと、主人公がこのチートポジションに来ることが多かったですね。三つ目がとおるの写楽もそうですが、魁!!男塾の剣桃太郎も、基本その気になったらあらゆる状況をひっくり返してましたからね。その能力を持ちながら、仲間が死ぬまで「いま助けるのはあいつの誇りを傷つける」とか言って動かない、死んだからって焦るでも悲しむでも怒るでもなく、やれやれって感じで出てくる。あれ、よく破綻してなかったなと思います。進行役の主人公の相棒
ゲームではよく、主人公が小動物や妖精の相棒を連れていることがありますが、これはシステム的にはゲームの進行役・説明役で、物語的には主人公の意見の代弁者になります。 主人公ひとりの場合にくらべて遥かに物語を進めやすくなりますが、一個だけ注意が必要です。それは―― 『進行役である』ということが、プロジェクトに周知されないことが稀にある。 という点です。 冗談のような話ですが、ちゃんと事前に話して進行役だって言ってるのに、年末のスペシャル配信イベントで『○○が拐われた!』みたいな形で外されたり―― 「妖精は世界観に合わないので、小鳥にしましょう」 「なるほど。オウムとかだと喋っても違和感ありませんね」 「鳥は喋りませんよ。漫画じゃないんだから」 「?????」 と提案されたり、だったらこのキャラ要らなくない? みたいなことになることが、たまにあります。 「わかりました、じゃあこのキャラが囚われている間は、ナビゲートはシステムメッセージでいれておいてください」 「了解です!」 のようなやりとりをしたにも関わらず、囚われているはずのキャラがちゃっかりナビゲートにだけ戻ってきたり、けっこういろんなことが起きますね。 業界歴だけは長いので、プロジェクトで起きそうな事故には予防策はとっているんですけど、そっちできたかー、みたいなことがちょくちょくあります。いや、責めはしないです。愛と努力あってのことだろうし、それでどんな結果になっても、形になり、まえに進んだんですから。 あと、相棒キャラの知識が広すぎて、主人公が知らないはずの事知っていたりすると物語を作るのがたいへんになるし、じつは、いちばん手間がかかるポジションのキャラだったりもします。 そのぶん書いてる方にも遊んでる方にも愛着が湧きますし、ゲームのマスコットとして重要なポジションを占めることになります。 逆にいうと、じゃあこのキャラが主人公を導いていたのはなぜか、という謎解きも仕掛けられるのでライターの腕次第でいくらでも化けるカードですね。 そろそろ主人公のお話も飽きましたね? それじゃあ、次のトピックへ。 そのまえに、お楽しみ水着グラビアのコーナーです。 さて、あなたには水着グラビアに見えるでしょうか? それとも、弊社さよならおやすみノベルズの既刊本紹介に見えるでしょうか?🐹
🐰
🐻
⬜