1. ことのおこり
ある朝、ベッドで目を覚ましたうさぎの視点から物語が始まります。
《私》が、「耳が動かせない」「体にかぶさってる布がじゃま」などと思いながら目を覚ますと、全身の毛がなくなっていることに気が付き、驚きます。
このノベルの主人公の《私》は、つい昨日までうさぎだったんです。
私、すなわち主人公のうさぎは、「また人間の子どもたちにイタズラされたんだ」と考えますが、すぐに、人間になってしまったことに気が付きます。
《私》が、「耳が動かせない」「体にかぶさってる布がじゃま」などと思いながら目を覚ますと、全身の毛がなくなっていることに気が付き、驚きます。
このノベルの主人公の《私》は、つい昨日までうさぎだったんです。
私、すなわち主人公のうさぎは、「また人間の子どもたちにイタズラされたんだ」と考えますが、すぐに、人間になってしまったことに気が付きます。
― 2 ―
2. 人間の家族との出会い
《私》は、母にあたるひとから、じぶんの名前が『ミナモ』だと聞かされます。
母に促され一階へと降りますが、はじめて二本足で立ち上がったミナモは階段を降りるのにもひと苦労、階段でじたばたしていると、どうやら姉らしきひとに凄まれてしまいます。
お姉さん
じゃまなんだけど、何やってんの?
わたし
はじめまして、うさぎです。今日、人間になりました。
お姉さん
あ、そう、あとでうさぎパイを食べさせてあげる。
わたし
あの、ええっと、ありがとうございます。
― 3 ―
2. いざ、学校へ
ようやく階段を降りたミナモは、食卓につきます。
箸の使い方、コップの使い方、食事のあとはトイレの使い方など、姉と母にあれこれ教わって、次はいよいよ学校へ行かねばなりません。
とりあえず外に出て、学校と言われてもどこへ行けばいいものかと戸惑っていると、親友のカザネと会います。カザネは、さすがは親友です。ついさっき人間になったばかりというミナモとも話を合わせてくれます。
箸の使い方、コップの使い方、食事のあとはトイレの使い方など、姉と母にあれこれ教わって、次はいよいよ学校へ行かねばなりません。
とりあえず外に出て、学校と言われてもどこへ行けばいいものかと戸惑っていると、親友のカザネと会います。カザネは、さすがは親友です。ついさっき人間になったばかりというミナモとも話を合わせてくれます。
ミナモ
おはよう。私を知っているひとですか?
カザネ
なに言ってるの、カザネだよ。学校に行くんだよね? カバンはどうしたの?
ミナモ
ほら、ちゃんとここに。
カザネ
それ、カバンじゃないよ。ペンギンのぬいぐるみだよ。
― 4 ―
― 5 ―
その 26
もしかして、たんぽぽ食べちゃだめ?
信号が変わるのを待っていると、足元に黄色い花があった。
「これ、おいしいんだよ!」
私はその花をふたつつんで、ひとつをカザネにあげた。
「たんぽぽね。でも人間は……」
でも人間は? どうしたの? 食べないの?
カザネはたんぽぽを食べる私の顔を、ふしぎそうに見ている。
「これ、おいしいんだよ!」
私はその花をふたつつんで、ひとつをカザネにあげた。
「たんぽぽね。でも人間は……」
でも人間は? どうしたの? 食べないの?
カザネはたんぽぽを食べる私の顔を、ふしぎそうに見ている。
― 6 ―
― 7 ―
4. 学校で友だちに会う
ミナモは学校へ行って、今日の朝、うさぎから人間になったことを話すけど、まわりはだれも信じないで笑い飛ばします。
だけどミナモには、笑われる理由がよくわかりません。
だけどミナモには、笑われる理由がよくわかりません。
ミナモ
昨日まではうさぎでした。たぶん、この学校の飼育小屋にいました。
ともだち
ちょっとまって、それってどういうこと? まほう?
イワゾ
テキトウなこと言ってないで、ショーコ見せろよー! うさぎだったってショーコ!
とくにこの、イワゾという少年は意地悪でした。ミナモばかりでなく、だれに対しても。
― 8 ―
その 32
葉っぱをいっぱいもらった
教室にもどると、つくえの上に葉っぱが置いてあったので、食べられそうなものをつまんで食べたらカザネが怒り出した。
「そんなもの食べちゃダメ! 意地悪されてるんだから、あなたも怒らなきゃダメよ!」
そうか。食べられない葉っぱもまじってるので怒ってるのかな。
となりではイワゾがくすくす笑ってる。
そうか、イワゾがとってきてくれたんだ。
たんぽぽの花は好きじゃないけど、イワゾは食べるかな?
「そんなもの食べちゃダメ! 意地悪されてるんだから、あなたも怒らなきゃダメよ!」
そうか。食べられない葉っぱもまじってるので怒ってるのかな。
となりではイワゾがくすくす笑ってる。
そうか、イワゾがとってきてくれたんだ。
たんぽぽの花は好きじゃないけど、イワゾは食べるかな?
― 9 ―
5. 姉は昔、狼だった
学校を終えて家に帰ってくると、姉のミサキが、じつはじぶんは昔、狼だったのだと教えてくれました。
ミナモは、狼のことは怖いと思いながらも、元動物だった姉にはシンパシーを感じました。ミナモは姉から、お風呂やドライヤーの使い方を教わりますが、だけど勉強する気にはなれませんでした。
ミナモは、狼のことは怖いと思いながらも、元動物だった姉にはシンパシーを感じました。ミナモは姉から、お風呂やドライヤーの使い方を教わりますが、だけど勉強する気にはなれませんでした。
ミサキ様
これを読んで、とりあえずひらがなだけは読めるようになりなさい
わたし
でもこれは、だいじょうぶなやつ。
ミサキ様
だいじょうぶって、何が?
わたし
覚えなくても、オオカミに食べられない。
ミサキ様
じゃあもし、町の中で『この先にオオカミがいます』って看板があったらどうするの?
と、そんなわけで文字だけは覚えることになり、姉は押し入れから絵本の束を引っ張り出してくれました。
いろんな絵本がありましたが、ミナモはなかでも、白いうさぎと黒いうさぎの本が好きになりました。
いろんな絵本がありましたが、ミナモはなかでも、白いうさぎと黒いうさぎの本が好きになりました。
― 10 ―
6. カザネと街へ
翌日、カザネとふたりで街の映画館へ行きました。
人間になってはじめてのバス、はじめてのエスカレーター、はじめての映画、はじめてのウォシュレット。
映画が終わって、本屋さんに行って、ミナモはうさぎの絵本にひかれますが、カザネがお財布を見るとミナモはあんまりお金を持っていなくて、公園で日向ぼっこすることにしました。
公園ではじめてのアイスクリーム、はじめてのブランコ。なにもかも始めて体験することばかりでした。
カザネはいろんなことを話してくれました。
人間になってはじめてのバス、はじめてのエスカレーター、はじめての映画、はじめてのウォシュレット。
映画が終わって、本屋さんに行って、ミナモはうさぎの絵本にひかれますが、カザネがお財布を見るとミナモはあんまりお金を持っていなくて、公園で日向ぼっこすることにしました。
公園ではじめてのアイスクリーム、はじめてのブランコ。なにもかも始めて体験することばかりでした。
カザネはいろんなことを話してくれました。
カザネ
いろんな仕事のひとがいるんだよ、人間の世界には。先生もいるし、バスの運転手さんもいるでしょう? どういうひとになって、何をするか決めなきゃいけないんだけど、その最初のがもう、あと二年とちょっとで決めなきゃいけないの。
ミナモ
私も?
カザネ
そう。うさぎにもどりたいなんて言わないよね?
ミナモ
うん。でも、どんな人間になればいいのかわからない。
カザネ
じゃあ、いっしょに考えてあげるよ
― 11 ―
― 12 ―
その 55
本当の私はみずぼらしかった
学校へ行って、飼育小屋に行って、私だったうさぎに会った。
茶色い子でも、ブチの子でもないのが私。
少し毛がぬけて、みすぼらしかった。
となりでカザネも見ていて、なんだか少し恥ずかしかった。
「じゃああの子が、こないだまでのミナモなんだね」
って、カザネが言った。
「カザネはいいの?」
「いいって、何が?」
茶色い子でも、ブチの子でもないのが私。
少し毛がぬけて、みすぼらしかった。
となりでカザネも見ていて、なんだか少し恥ずかしかった。
「じゃああの子が、こないだまでのミナモなんだね」
って、カザネが言った。
「カザネはいいの?」
「いいって、何が?」
― 13 ―
7. ペタロウとの出会い
カザネを通して、ミナモはすこしずつ学校に馴染みました。
そんななかで、じぶんも昔はうさぎだったというペタロウという少年と知り合いました。
そんななかで、じぶんも昔はうさぎだったというペタロウという少年と知り合いました。
ミナモ
じゃあ、私の大先パイだ!
ペタロウ
そうだね。
ミナモ
人間になってどのくらいたつの?
ペタロウ
わかんない。小学校のころだから、二~三年かな。
そんなペタロウでしたが、うさぎだったことを友だちには隠していました。だけどミナモは、隠している理由がわからずに、みんなに教えてしまいました。
― 14 ―
― 15 ―
8. ペタロウがいじめられる
ミナモがペタロウのことを話してから、ペタロウはミナモともどもいじめられるようになりました。
だけどミナモは、じぶんがいじめられている自覚がないので、何が悪かったかよくわかりません。
人間の社会にミナモは戸惑い、覚えたての文字で、絵本のなかの黒いうさぎ、白いうさぎと話したくて、本の余白に手紙を書いてみるけど、とうぜん返事はありませんでした。
学校の勉強はよくわからず、テストでは0点を取り続け、このころになると、カザネも本気でミナモのことを心配しはじめました。
だけどミナモは、じぶんがいじめられている自覚がないので、何が悪かったかよくわかりません。
人間の社会にミナモは戸惑い、覚えたての文字で、絵本のなかの黒いうさぎ、白いうさぎと話したくて、本の余白に手紙を書いてみるけど、とうぜん返事はありませんでした。
学校の勉強はよくわからず、テストでは0点を取り続け、このころになると、カザネも本気でミナモのことを心配しはじめました。
カザネ
とりあえず、漢字は読めるようになって。テストも0点ばかりじゃなくて、少しは点を取れるようになって。少しずつでいいから、元のミナモにもどって。
ミナモ
うん。
カザネ
人間になろう、ミナモ。本当にうさぎだったんだとしても、今のあなたはミナモなんだから。人間なんだから。
カザネから真剣にそう言われて、ミナモは戸惑いました。
― 16 ―
その 65
笛がうまく吹けなかった
音楽の時間に、リコーダーを吹いた。
今までもぜんぜん吹けなかったけど、音が出るだけで楽しいと思ってた。
でも今日は、私だけちゃんと音楽にならないこと、指がちゃんと動かないこと、それがすごくダメなことみたいで涙が出てきた。どうやって指を動かせばいいの。どの穴を押さえても音楽になんかならなくて、手が震えてくる。涙が止まらない。どうすればいいの、私。
今までもぜんぜん吹けなかったけど、音が出るだけで楽しいと思ってた。
でも今日は、私だけちゃんと音楽にならないこと、指がちゃんと動かないこと、それがすごくダメなことみたいで涙が出てきた。どうやって指を動かせばいいの。どの穴を押さえても音楽になんかならなくて、手が震えてくる。涙が止まらない。どうすればいいの、私。
― 17 ―
9. 孤立するミナモ
人間になろうと思うほどに、じぶんの無力さに打ちひしがれるミナモに、ペタロウは笛を教えると行ってくれました。だけど、ミナモはペタロウを疎ましがります。じぶんより下の立場のペタロウが偉そうなことを言うのが気に入りませんでした。
他方、いじめっ子のイワゾは、ミナモの大嫌いな唐揚げを、葉っぱと交換で食べてくれました。ミナモは葉っぱが大好きだったので、ミナモはイワゾに心を許すようになりました。
カザネは、ミナモが葉っぱを食べることを快く思っていませんでした。ミナモのほうもそれをわかっていて、それでも、これみよがしに葉っぱを食べてみせるものだから、カザネはそんなミナモを無視するようになりました。
他方、いじめっ子のイワゾは、ミナモの大嫌いな唐揚げを、葉っぱと交換で食べてくれました。ミナモは葉っぱが大好きだったので、ミナモはイワゾに心を許すようになりました。
カザネは、ミナモが葉っぱを食べることを快く思っていませんでした。ミナモのほうもそれをわかっていて、それでも、これみよがしに葉っぱを食べてみせるものだから、カザネはそんなミナモを無視するようになりました。
― 18 ―
その 69
カザネに無視された
その日、カザネはひとりで家に帰った。
私もひとり、夕焼けの下。
なんとなく、歌なんか歌って。
私は私でいい。
人間にもうさぎにもなれない、今のままでいい。
私もひとり、夕焼けの下。
なんとなく、歌なんか歌って。
私は私でいい。
人間にもうさぎにもなれない、今のままでいい。
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10. いろんなところに亀裂が入る
ある日家に帰ると、お父さんからもお母さんからも、人間にもどるようにと責められました。
だけどミナモには、その方法がわかりません。
絵本の余白に、うさぎあての手紙を書いてみるけど、返事は来ませんでした。
翌日、いらだちまぎれに、元じぶんだったうさぎの耳を握っていじめていると、イワゾが話しかけてきました。
イワゾは、ミナモに、スマホの使い方を教えてくれて、ミナモは言われるがままにペタロウの悪口を掲示板に書き込みました。
そのまた翌日、掲示板に書いた悪口のことで、先生にもお母さんにも怒られました。だけどミナモには、その理由がわかりませんでした。
その頃からミナモは、おなかに痛みを感じるようになります。だけど、イワゾと一緒にペタロウを罵って笑っていると、その痛みも紛れました。
だけどミナモには、その方法がわかりません。
絵本の余白に、うさぎあての手紙を書いてみるけど、返事は来ませんでした。
翌日、いらだちまぎれに、元じぶんだったうさぎの耳を握っていじめていると、イワゾが話しかけてきました。
イワゾは、ミナモに、スマホの使い方を教えてくれて、ミナモは言われるがままにペタロウの悪口を掲示板に書き込みました。
そのまた翌日、掲示板に書いた悪口のことで、先生にもお母さんにも怒られました。だけどミナモには、その理由がわかりませんでした。
その頃からミナモは、おなかに痛みを感じるようになります。だけど、イワゾと一緒にペタロウを罵って笑っていると、その痛みも紛れました。
― 20 ―
その 81
何をやっても私が怒られる
私がたんぽぽを投げると、ペタロウが泣きながら怒り出した。
私のは当たってないのに、なんで私が怒られるのかわからなかったけど、イワゾたちはそれを見るとニヤニヤしながら自分の席にもどっていった。
カザネが来て、落ちてるたんぽぽを拾った。
私も手つだおうとしたけど、
「あんたはペタロウに謝まるのが先」
って言われた。
「謝まるのはイワゾだと思う。私が投げたのは当たってないから」
「もうあなたとは口を聞かない。二度と話しかけないで」
私のは当たってないのに、なんで私が怒られるのかわからなかったけど、イワゾたちはそれを見るとニヤニヤしながら自分の席にもどっていった。
カザネが来て、落ちてるたんぽぽを拾った。
私も手つだおうとしたけど、
「あんたはペタロウに謝まるのが先」
って言われた。
「謝まるのはイワゾだと思う。私が投げたのは当たってないから」
「もうあなたとは口を聞かない。二度と話しかけないで」
― 21 ―
― 22 ―
その 82
さびしいのはきらい
公園で、ひとりでブランコに乗ってみたけど、ちゃんとこげなかった。
カザネがいてくれたら手伝ってくれるけど、カザネは本当の友だちじゃないから。
私はただ、カザネの友だちの体を乗っ取ったうさぎ。
うさぎだったころ、茶色とブチは友だちだったと思う。
うさぎだから、お話することはなかったけど。
いまは一人ぼっち。
カザネがいてくれたら手伝ってくれるけど、カザネは本当の友だちじゃないから。
私はただ、カザネの友だちの体を乗っ取ったうさぎ。
うさぎだったころ、茶色とブチは友だちだったと思う。
うさぎだから、お話することはなかったけど。
いまは一人ぼっち。
― 23 ―
11. 相談できるひとがいなくなる
やがて、両親はミナモのことでよく口論するようになりました。
学校ではイワゾしか友だちがいませんし、絵本のなかのうさぎたちは、あいかわらず返事をしてくれません。
そうこうしているうちに、ペタロウが転校していき、クラスメイトは、それがミナモのせいだと噂しました。
そしてそのあとすぐに、イワゾもクマのぬいぐるみになって、クラスからいなくなってしまいました。
ちょうどそれと重なるように、ミナモの腹痛がひどくなって、病院で見てもらうと『うさぎのかげ』ができていると告げられます。
学校ではイワゾしか友だちがいませんし、絵本のなかのうさぎたちは、あいかわらず返事をしてくれません。
そうこうしているうちに、ペタロウが転校していき、クラスメイトは、それがミナモのせいだと噂しました。
そしてそのあとすぐに、イワゾもクマのぬいぐるみになって、クラスからいなくなってしまいました。
ちょうどそれと重なるように、ミナモの腹痛がひどくなって、病院で見てもらうと『うさぎのかげ』ができていると告げられます。
先生が言うには、『うさぎのかげ』はメスのうさぎだけがかかる病気で、体の中にうさぎの形のかげができるらしい。かかったのがうさぎだった場合は害はなくて、子うさぎを生んだら消えてなくなるけど、人間がかかった場合は、一週間で『のろいのうさぎ』になって、体から飛び出してきてまわりのひとたちをバリバリと食べ始めるって。
ミナモ
じゃあ、どうすればいいの?
先生
人間の場合は、治す方法は見つかっていません。だけど、うさぎにもどればだいじょうぶ。何事もなく暮らせます
― 24 ―
その 93
手紙の書き方がわからない
ノートを開いて、ボールペンで、手紙を書いてみたた。
――ごめんね ぺたろう
あやまりかたが わからないけど ほんとうに ごめんなさい――
あとは何をどう書けばいいんだろう。
気持ちは次から次にあふれてくるのに、どんな言葉にすればいいのかわからない。
たくさん文字を覚えたはずなのに、どの文字も私の気持ちを語ってくれない。
――ごめんね ぺたろう
あやまりかたが わからないけど ほんとうに ごめんなさい――
あとは何をどう書けばいいんだろう。
気持ちは次から次にあふれてくるのに、どんな言葉にすればいいのかわからない。
たくさん文字を覚えたはずなのに、どの文字も私の気持ちを語ってくれない。
― 25 ―
ミサキ
本当は何があったの、ミナモ。
わたし
私は本当のことしか言ってないのに、どうして『本当は』って聞くの?
ミサキ
わかった。じゃあ、信じる。だから、何か困ったことがあったら教えて。お父さんにもお母さんにも言わない。約束する
優しく言ってくれたから、私も『のろいのうさぎ』のことを話した。
ミサキ
それだけだとわからないから、こんど病院に行くときはいっしょに行こう。私が先生にもう少し詳しく聞いてあげるから
わたし
お姉ちゃんは、オオカミのときに、『オオカミのかげ』はできなかったの?
― 26 ―
その 95
カザネに笑ってほしい
人間なんてやめたい。
でもその前に、カザネとお話ができるように、私、次のテストで10点取る。
10点取ったら、カザネにごめんなさいを言う。
ペタロウへの手紙はあんまりうまく書けてないけど、それを先生に預かってもらって、それから、本をいっぱい読んで、いっぱい読んで、いっぱい読んで、うさぎにもどる方法を探すの。
カザネともういちどお話ができたら、私もう、うさぎにもどりたい。
でもその前に、カザネとお話ができるように、私、次のテストで10点取る。
10点取ったら、カザネにごめんなさいを言う。
ペタロウへの手紙はあんまりうまく書けてないけど、それを先生に預かってもらって、それから、本をいっぱい読んで、いっぱい読んで、いっぱい読んで、うさぎにもどる方法を探すの。
カザネともういちどお話ができたら、私もう、うさぎにもどりたい。
― 27 ―
12. 本の中のうさぎが話しかけてくる
逃げ場を失って、絶望していると、本のなかのうさぎがようやくミナモに話しかけてきます。
ミナモは今までに起きたことを黒いうさぎに相談するけど、さすがに向こうにも飲み込めていないようでした。
ミナモは今までに起きたことを黒いうさぎに相談するけど、さすがに向こうにも飲み込めていないようでした。
黒うさ
そうか。たいへんだね。でもそういう話は、ぼくたちにはなにも出来ないなあ
ミナモ
ハァ……。やっぱりそうだよね。
黒うさ
でも、どんな悩みでも聞いてくれるひとを知ってるよ。そのひとに電話をしてみるといいよ。
ミナモ
電話? 電話ってなに?
黒うさ
スマホを持っているだろう? それで出来るから調べてみなよ。番号はこの本のどこかに書いてあるから探してね
それだけ告げると、本から浮かび上がっていたうさぎは消えていった。
― 28 ―
13. だけど電話番号は見当たらない
ミナモは黒いうさぎに言われて電話番号を探してみたけど、どこにも見当たりませんでした。
ミナモは、信じていた黒いうさぎにまでだまされたと思って、ついに大声を上げて泣いてしまいます。
すると、その声を聞きつけて、隣の部屋からお姉ちゃんが駆けつけてくれました。
ミナモは、信じていた黒いうさぎにまでだまされたと思って、ついに大声を上げて泣いてしまいます。
すると、その声を聞きつけて、隣の部屋からお姉ちゃんが駆けつけてくれました。
ミサキ
だいじょうぶ? ミナモ。
ミナモ
うさぎがウソをついたあ!
ミサキ
ウソをついたって、黒うさちゃんと白うさちゃんが?
ミナモ
そう。
ミサキ
黒うさちゃんと白うさちゃんがウソをつくわけないでしょう?
ふたりで探そう。ぜったいにあるから。
黒いうさぎちゃんがウソをつくと思う?
ふたりで探そう。ぜったいにあるから。
黒いうさぎちゃんがウソをつくと思う?
ミナモ
黒いうさぎはウソなんかつかない。だって、私が一番好きな絵本だから。
ミサキ
私もそうだよ。だから、あきらめちゃだめ。
― 29 ―
14. 電話番号発見!
ミナモは姉とふたりで電話番号を探しました。
ふたりが電話箱号を見つけたのは、裏表紙。そこにあったのは出版社の電話番号でした。
ミナモは姉に手伝ってもらって、すぐに電話をかけました。
ふたりが電話箱号を見つけたのは、裏表紙。そこにあったのは出版社の電話番号でした。
ミナモは姉に手伝ってもらって、すぐに電話をかけました。
編集者
はい、こちらは◯△出版受付です。
ミナモ
電話がしゃべった!
ミサキ
だいじょうぶ、電話がしゃべってるんじゃないの、電話の中のひとがしゃべってるの。気にせずちゃんと話して!
編集のひとに話すと、すぐに担当のひとに変わってくれて、専門のカウンセラーを紹介してくれた。
― 30 ―
その 100
うさぎにもどりたい!
「それで、元にはもどれるんですか?」
「ええ、そうですね、この症状だったら、いちばん好きなひとに、さよならの手紙を書けばもどれます」
「えっ? いちばん好きなひとにさよならって……」
「ミナモ、そんなことできるか?」
お父さんは心配してくれるけど、
「うん、だいじょうぶ」
私はすぐに、スマホでカザネに手紙を書いた。
書きながら涙がこぼれてきたけど、お姉ちゃんが肩を抱いてくれた。
「ええ、そうですね、この症状だったら、いちばん好きなひとに、さよならの手紙を書けばもどれます」
「えっ? いちばん好きなひとにさよならって……」
「ミナモ、そんなことできるか?」
お父さんは心配してくれるけど、
「うん、だいじょうぶ」
私はすぐに、スマホでカザネに手紙を書いた。
書きながら涙がこぼれてきたけど、お姉ちゃんが肩を抱いてくれた。
― 31 ―
ゆっくりと、ゆっくりとだけど、カザネにお手紙を書いた。
夜遅くまでかかったけど、カザネから返信をもらって、それにまた返信して、涙もたくさんこぼれたけど、やっと笑えた気がする。
「ねえ、これ」
カザネから送られてきたスタンプを、お姉ちゃんに見せて、
「カザネも笑ってるってことなんだよね?」
お姉ちゃんもうなずいて、笑ってくれた。
しばらくうさぎになっていた気がする。
学校の飼育小屋で寝起きして、なんだか私によく似た子に耳を引っぱられたりしたような……。
でも、あれって夢だったんだ。
そう言えば風音と映画を見る約束をしてたっけ、と思ってスマホを見ると、風音と私とでやりとりした記録がのこっていた。私が知らないうちに――
夜遅くまでかかったけど、カザネから返信をもらって、それにまた返信して、涙もたくさんこぼれたけど、やっと笑えた気がする。
「ねえ、これ」
カザネから送られてきたスタンプを、お姉ちゃんに見せて、
「カザネも笑ってるってことなんだよね?」
お姉ちゃんもうなずいて、笑ってくれた。
しばらくうさぎになっていた気がする。
学校の飼育小屋で寝起きして、なんだか私によく似た子に耳を引っぱられたりしたような……。
でも、あれって夢だったんだ。
そう言えば風音と映画を見る約束をしてたっけ、と思ってスマホを見ると、風音と私とでやりとりした記録がのこっていた。私が知らないうちに――
― 32 ―
15. カザネとお別れ
カザネ
どうしたの? うさぎにもどるの?
ミナモ
うん
あのね あなたのともだちは わたしじゃなくて みなもなの
みなものからだを かってにつかって ごめんね
わたし うさぎにもどって やることができたの
あのね あなたのともだちは わたしじゃなくて みなもなの
みなものからだを かってにつかって ごめんね
わたし うさぎにもどって やることができたの
カザネ
やることって?
ミナモ
あかちゃんをそだてるの
カザネ
すごい! ミナモが?
ミナモ
みなもじゃないよ わたしが だよ
― 33 ―
――スマホの日付を見ると、私が覚えている日より一ヶ月くらい日が経っていた。
そのあいだに何が起きたのか、スマホのやりとりだけじゃわからなかったけど、部屋の中に開きっぱなしになっている本を見ると、そこにびっしりと字が書いてあった。
つたない文字で、主人公のうさぎにあれこれと相談して、最後はどうやら出版社のひとがなんとかしてくれたらしい。
私は――
私はまだ混乱しているけど、将来は本を作るひとになろうと思った。
ベッドから腰を上げると、少しずつ、少しずつ視線が上がっていって、窓の外の景色も空から――家の屋根、地面へとおりてくる。
うさぎの生活とくらべると、ここはまるで空の上。
やらなきゃいけないことがたまってると思うけど、だいじょうぶ。
私なら、だいじょうぶ。
そのあいだに何が起きたのか、スマホのやりとりだけじゃわからなかったけど、部屋の中に開きっぱなしになっている本を見ると、そこにびっしりと字が書いてあった。
つたない文字で、主人公のうさぎにあれこれと相談して、最後はどうやら出版社のひとがなんとかしてくれたらしい。
私は――
私はまだ混乱しているけど、将来は本を作るひとになろうと思った。
ベッドから腰を上げると、少しずつ、少しずつ視線が上がっていって、窓の外の景色も空から――家の屋根、地面へとおりてくる。
うさぎの生活とくらべると、ここはまるで空の上。
やらなきゃいけないことがたまってると思うけど、だいじょうぶ。
私なら、だいじょうぶ。
― 34 ―
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