
- 1 ドキドキ・下駄箱事件
- 2 ドキドキ・宇宙戦争
- 3 ドキドキ・タイムマシーン
- 4 ドキドキ・シリアス展開
- 5 ドキドキ・終末生活
- 6 ドキドキ・修学旅行
- 7 ドキドキ・学園祭
- 8 ドキドキ・東幡豆革命軍
- 9 ドキドキ・月面基地
- 10 ドキドキ・日本創生記
- エピローグ ドキドキ・続・下駄箱事件
- あとがき
1 ドキドキ・下駄箱事件
わたし、2 ドキドキ・宇宙戦争
朝起きると、宇宙戦争が始まっていた。 パリ、ニューヨーク、ロンドン、上海と、宇宙空間より飛来した未確認飛行物体によって攻撃を受けていますと、テレビのアナウンサーが伝える。 「学校、どうしよう」 「どうしようって、行かなきゃダメでしょう? 休みの連絡来てないんだから」 そういうものなのかなぁ。 テレビでは総理大臣の緊急記者会見。 「学校を休校するかどうかの判断は、各自治体の決定に従ってください」 って、ええーーーーーっ! なんなのそれ! チャリで学校へ向かうと、いつもの開かずの踏切が開いたままだった。 校門のあたりでカオルの姿を見かけるけど、 「おはよー」 って、テンション低かった。 「踏切が開いてると、なーんか張り合いがない」 「あー、わかる」 「ニューヨーク壊滅って、ニュースで言ってた」 「うーん。でもなんか、実感ないなぁ」 昇降口にはレイカがいたけど、一瞥すると背中を向けて階段を上っていった。 「うーちゅーうーじーん!」 背後から甲高い声が響いて、近づいてくる。 「がぁーーーーーっ! 攻めてきたぁーーーーーっ!」 スカートの裾を翻して伊部リコ登場。ポーズを決める。 「2023年、6月7日未明、世界各国に宇宙より飛行物体が飛来! その数4千! これは地球の全戦闘機の数に相当する! どういうことかわかる?」 わかんない。 「一人一殺! キルレシオ1対1に持ち込めば防衛できる! ――ということだけど、ネット見た?」 テンション高っ……。 「敵の飛行物体1機に最新鋭のF22戦闘機15機が一瞬で撃破されたの!」 「宇宙人はなにが目的なの?」 「そう! そこよ! それをいま調べてるところ!」 「調べるって……」 「ネットにはどんな情報でも転がっているのよ! すべてわたしにまかせて!」 一時間目。国語。自習。 「やっぱり本人に聞くべきだよ」 って、カオルは華鳴池くんの話。 「宇宙人、日本にまで来たら死ぬかもしれないのよ!? わたしはヤダ。こんな中途半端で死にたくない」 「中途半端って?」 「取ってないアイテムとか、行ってないエリアとか」 ゲームの話か……。 「わたし、今日はゲームできないかもしれない」 「あっ、もしかして、華鳴池くんと?」 「はぁ?」 「電話とかチャットとかで、うふふ、あはは、とか」 「しないよ」 そもそも、下駄箱に花を放り込まれただけ――話もしてないし。 「それにしても、生徒は登校、先生は休みってどういうこと!?」 「先生は電車だから」 「宇宙戦争くらい想定しなきゃダメでしょ!? 大人なんだから」 「わたしも、考えたこともなかった」 「でもこれはまだ予兆よ! これからもっとすごいことが起きるの!」 「すごいことって?」 「タイムマシンが現れて、時間の流れがめちゃくちゃになるとか!」 「そこまで!?」 「そうでしょ? サバト! タイムマシン来るよね?」 「にゃー」 にゃーって。 「こんなときこそコックリさんよ!」 と、中休み、カオルに手を引かれてオカルト部室に駆け込んだけど、部長のカッパの像が割れていた。 「キャーーーーーーーーーッ!」 宇宙戦争勃発にもたいして動じてなかったカオルが叫んだ。 「カッパ様が……カッパ様が……」 動揺してオロオロと破片を集めるカオル。 「カッパ部長いないとコックリさんってできないの?」 「できなくはない……できなくはないけど……」 『くろ……みさわ……カオルよ……』 「カッパ部長!」 カオルのアテレコによる一人芝居が始まった。 『わしにかまわず……コックリさんに真を問うのじゃ……』 「そんな、部長! わたしにはできません!」 カオルが小芝居やってる間にも宇宙戦争は拡大してると思うんだけど、どうなの。 「こんなとき、ボンドがあれば……」 『わしに……かま……う……うっ!』 「カッパ様! お気を確かに! カッパ様ーっ!」 「あの……ボンドを使いたいんだけど……」 三時間目のあと。 学級委員の華鳴池くんに、クラスの備品を借りにいった。 「いいけど、何に使うの?」 「あの……オカルト部室にあったカッパ像の修理……」 レイカが離れたところでわたしを睨んでる。 それになんか足震えてるし。これじゃわたしの方から告白してるみたいじゃない。 「それは難しいな」 「えっ?」 「オカルト部の備品だったら、オカルト部の予算でなんとかしないとダメなんじゃないかな?」 かーっと顔が熱くなった。 「じゃ、じゃあいいです!」 一礼して走り去ったけど、心臓がバクバクしてる。 勇気出して話しかけたのに。まるでわたしがふられたみたい。涙が出てきた。なんで? ボンド借りれなかっただけなのに、なんで? 「がんばったね、ナミ」 カオルはわたしの頭を抱きとめてくれたけど、涙が止まらない。 たかがボンドなのに。 でもどうして。 こないだまでなんとも思ってなかったのに。 放課後。 カッパ像の風呂敷を抱えたカオルと下校。 校門のまえにはレイカの姿があった。 「あなたとは今日のうちに決着をつける」 カオルは「またぁ?」と、露骨にうんざり感を出してみせた。 「あんたさぁ、恋のライバルがナミだからいいけどさぁ、もし相手が大坂なおみだったらどうするの?」って、いつになく強気。 だけど、レイカは動じない。 「もちろん! 勝てるまで技を磨くのみ!」 すげー。 「男子だったら?」 「男子!?」 「ノバク・ジョコビッチやラファエル・ナダルや西岡良仁だったら?」 「そ、それは……」 「ぶっちゃけ、この学校の男子テニス部部長、暮井コウトだったらどうすんのよ」 「だ、男子を引き合いに出すなど、卑怯だぞ!」 あ、動揺するんだ。 「卑怯もなにも、ありうる話でしょう? ねえ、サバト!」 「にゃあ!」 「な、な、な……夏までには告白するはずだった……」 ロウバイって言うのかな、こういうの。 「お父様の事業も、華鳴池家との共同プロジェクトが決まって……そのお披露目のパーティの夜……ふたりでモーリシャスのビーチで……」 知らんがな。 と、そのとき、上空に閃光が過った。 轟音。 レイカは足をすくませて、その場にしゃがみ込んだ。 そうだった。レイカ、雷が大の苦手だったんだ。 「そういえば、雷、怖かったよね」 「うるさい」 「レイカ、明日ぜったいに勝負する。約束する!」 「約束?」 うん、明日。もしわたしたちが、生きていたら。 玄関のドアを開けると、お父さんとお母さんの言い争う声が聞こえた。 「だったらメール見せて」 「プライベートにまで口を出すのか?」 「やましいことがあるから隠すのよ」 浮気の件だ。 「ただいま」 リビングのドアを開けると、お父さんはわたしの顔を睨んで、階段を上ってった。 「おかえり」って、お母さん。 倒れた椅子を起こしながら、 「冷蔵庫に食べるものあるから、勝手に食べて」 って、わたしから顔をそむけたまま、頬を拭った。 地球はどうなってしまうんだろう。 帰ってきたらそんな話をする気でいたのに、とても話せる雰囲気じゃない。 「テレビつけていい?」って聞くと、 「いいけど、気が滅入るだけだよ」って。 リモコンのボタンを押すと、テレビは宇宙人来襲のニュースを伝えた。 世界地図が表示されて、壊滅してしまった地域が赤く塗られていた。 チャンネルを回すと、モノクロの映画を流している局があった。 『緊急・名作映画一気上映』って。 これで最後だから、人生に悔いを残さないように、ってか。 L字型のニュース枠には、速報がひっきりなしに流れていた。 防衛大臣、北海道にて消息不明―― 華鳴池副大臣が臨時で執務を代行―― わたしはどうすればいいんだろう。 つい三日まえまで、華鳴池くんのことなんか、好きでもなんでもなかった。 そりゃあカッコいいのはわかってたし、一年のとき初めて話しかけたときはドキドキしたけど、いまの気持ちとは違う。 朝はお母さんに起こされた。 「宇宙人は!?」 テレビをつけると、世界地図はもう7~8割がた真っ赤。 「わたし、この家はもう出ていくけど、あなたはどうする?」 ってお母さん。 「出て行くって?」 「離婚するの」 離婚……。わたしのせい? 「あなたはお父さんとこの家に残る?」 って、その話いましなきゃダメなの? 「出ていくのっていつ?」 「今日中に荷物をまとめるから、あなたも今日学校終わるまでに考えておいて」 「……わかった」 お母さんも、お父さんの浮気には感づいてたんだと思う。 「って、学校?」 学校に行くと校門にはレイカの姿があった。 「レイカも来たんだ……」 「当然でしょう。あなたとの決着をつけない限り、死ぬわけにはいかないわ」 ま、しょうがないか、と思ってると、すぐにカッパの像を風呂敷に包んだカオルも登場。 「カッパ部長、治療完了~~~~~っ!」 カッパ、そんなに大事か。 「早く部室に! コックリさんに聞くのよ! 地球の運命を!」 「バカじゃないの? あなたたち」って、レイカ。 そう。大正解。バカなんです。 「人類が滅亡しかけてるときに決闘しようってほうがバカでしょ!」 徹夜したテンションのカオルが言い返した。 「決闘じゃないわ! 正々堂々、試合を申し込んでいるのよ!」 レイカが苛立ってラケットをカオルの鼻先に向けたとき、雷光が閃いた。 身構える間もなく、雷鳴が駆け抜けると、レイカは頭を抱えてうずくまった。 「レイカも来て! いますぐ!」 「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。おいでくださいましたら、『はい』へとお進みください」 ボンドでツギハギになったカッパ部長のまえ、わたしとカオルとレイカ、三人でコインに指を乗せた。 ――はい。 緊張が走る。 「まずは人類が滅亡するかどうか聞きたい」 レイカが小声でカオルに伝える。 「こっくりさん、こっくりさん、お教えください。人類は滅亡しますか?」 だけどコインは動かない。 「どういうこと?」 「未来のことだから、確定してないってことなのかも」 カオルは「うーん」と考えて、 「こっくりさん、こっくりさん、お教えください。地球に来た宇宙人の目的はなんですか?」 今度はコインが動き出した。 まず一文字目は『ふ』。 わたしとカオル、わたしとレイカ、顔を見合わせる。次に示したのは『く』。 次は『し』。 「ふくし――」 コインは右へ。『ゆ』。 そして、『う』。そこで止まった。 「ふくしゅう?」 「復讐って、いったい何に!?」 コインは躊躇うことなく『た』へと動き始める。 「た――」 右へ、左へ、また右へと、文章を綴る。 「たこやきにして――」 「くわれた――」 「タコ焼きにして食われた!?」 ――コックリさんに聞いた話を総合すると、こういう話だった。 愛知県3 ドキドキ・タイムマシーン
翌日、お母さんは不動産屋に行って部屋を借りた。 お母さんの収入だと、借りられるのは四畳半ひとま。これからはお風呂は近くのマンガ喫茶のシャワーを利用するしかないと聞かされた。 でも、二日にいちどのお風呂の日はマンガ喫茶でマンガ読み放題。それならまあ、いいか。 ブラジル、サンパウロからのニュース映像のなかにサバトの姿があった。 「あの黒猫、中学のオカルト部にいたの」 わたしが言うと、 「似た猫じゃない? 同じような黒猫が、いろんなところで目撃されてるんだって」 って、お母さん。 「目からビーム出す動画が出回ってるけど、CGに決まってるでしょう?」 いやいや。わたし、目の前で見たもん。 学校に来れば日常に戻れる気がしたのに、廊下に先生の姿もないし、職員室もガラガラ。 静かな昇降口。体を滑り込ませると、華鳴池くんの姿があった。 「只野……」 「華鳴池くん」 だめだ、目を合わせられない。 「休みかどうか連絡が来なかったんで来てみたけど、だれもいないみたいだ」 「あ、うん」 もしかして、学校にいるのふたりだけ? 「今日も自習だと思うけど、教科書どこまでやったか覚えてるか?」 「あ、うん」 わたしは少し上履きを履くのに手間取るふりをして、わざと少し遅れて彼の背中を追った。 階段。わたしの5段先に華鳴池くん。 華鳴池くんのあとをしずしずと歩いてたら、 「リコを助けに行くぞーーーーっ!」 って、カオルが駆けてきた。 振り向くわたしと華鳴池くん。その姿をみて、カオルが固まってる。 「あ、ごめん、そういうことだったら、わたし、ひとりで行ってくる……」 って、なんで気を使うのっ! 「ひとりでって、どこに?」 華鳴池くんが問いかける。 「あ、あの、わたしたち、伊部さんを助けなきゃいけなくて、宇宙船を調べに……」 カオル、しどろもどろ。 華鳴池くんはわたしに視線を移す。 「そ、そうなの。昨日、タイムマシーンでリコが助けてくれて、それで……」 わたしもしどろもどろ。 「タイムマシーン?」 「あ、ええっと、時間を移動する……的な……?」 「そう、バスくらいの大きさで……宙を浮いてる……? 的な……?」 宇宙船は市営グラウンドに横たわっていた。 機体は黒く焦げて、艦首から船尾へとかけて巨大な穴がある。 なかに入ると焼け焦げた宇宙人の死体。 小さいながらもちゃんと手足がある人型の宇宙人。 焼け跡からは電気コードを焦がした匂いと、コピー機の裏の匂い。 「宇宙人ってタコ型じゃないっけ?」 焼け焦げた宇宙人はどれもカッパ。 華鳴池くんは嘔吐いてるけど、わたしとカオルは死線を超えてきちゃったせいか、なにを見てもたいして動じなくなっちゃってる。 タイムマシーンはすぐに見つかった。 「あった!」 瓦礫を超えて駆け寄ると、華鳴池くんも追いかけてきた。 ハッチに手をのばすと、同時に華鳴池くんの手ものびてきて、指が触れた。 「あっ。ごめん」 「ううん、大丈夫」 ドッキドキだ。手が触れただけなのに。もう足に感覚がない。 遅れて来たカオルが、 「わたし、邪魔だったら帰るよ?」 って。 だめだもう、わたし。 真っ赤になってるわたしを見て、華鳴池くんは「えっ? なに?」って首をひねるけど、華鳴池くんのせいなんだからね、もう。 言葉を詰まらせていると、「華鳴池くんさあ……」って、カオルが華鳴池くんに詰め寄る。 えっ? なに? ちょっとまって。 「本当はどう思ってるわけ?」 って、そ、それ聞いちゃう? 「どう? どうというと?」 戸惑う華鳴池くん。 「だ、だよね。カオル、わけわかんないよね。どうって、なにがどうなのよ。ねぇ」 「ナミ、ずっと悩んでるんだよ。あなたのことで」 だからもう、まってってば! 「俺のことで?」 華鳴池くん困ってるじゃない! なんでここで聞くわけ!? 気がつくとわたしは、ふたりのもとから走り出していた。 わたし、いまのままでいいんだよ。 べつに、視界の端っこに華鳴池くんが見えてれば。 ボロボロと涙がこぼれる。 華鳴池くんにガーベラもらった。それだけでわたし、生きていける。 しばらくものかげでうずくまっていると、カオルがやってきた。 「タイムマシーン、動くようになったよ」って。 「えっ?」 「リコを助けに行こう」 ちょっとまって、それだけ? 「華鳴池くんとは何を話したの?」 問いかけると、カオルは沈黙。そのあとで、わたしを抱きしめて、 「忘れな。あんな男のことは」 って……。 華鳴池くん、なんて言ったの? タイムマシーンの扉を開けると、シートに座った華鳴池くんの姿があった。 「伊部を助けに行こう」 そう言って視線を投げてくるけど、どう返せばいいかわからない。 「どうしたの?」 わたしの様子を見て、華鳴池くんが問いかける。 「昨日からいろいろあったから」 って、カオルが繕ってくれるけど、やばいこれ。 わたし、いつのまにか華鳴池くんのこと、ものすごく好きになってる。 昨日の昼まで時間を遡ると、リコは進路指導室のパソコンをいじってる最中だった。 タイムマシーンは進路指導室の壁を突き破って、出現。 「な、なんすか、あんたたち!」 「リコ! 乗って! この世界線にいると、あなた夕方に死ぬの!」 「でもいま、東幡豆のカッパ伝説と宇宙人とが点と線とで……!」 「いいから来て! もうそのフェイズじゃないの!」 もとの時間軸にもどると、戦火はさらに縮小、人類優勢に転じていた。 「これ、ぜんぶサバトがやったんだよね?」 「サバトが?」 カオルがハテナを3つ浮かべるので、エジプトとノルウェーで撮影された動画を見せた。 動画でサバトは、昨日校庭でやったように、目からビームを放って戦艦を撃ち落としていた。 「こんなのもあった!」 「なにこれ」 「ビーム曲げてる!?」 みんなのテンションがあがるなか、わたしは少し寂しさを感じた。 「もう戻ってこないのかな、サバト」 「わかんない。でも、フラっと戻ってきそうな気がする。あの子なら」 放課後、お母さんと借りたアパートに帰った。表札にはお母さんの旧姓、『落田』の文字。まだ籍は抜いてないけど、もうわたし只野ナミじゃないんだ。 「ただいま」 わたしは道すがら盗んできたアロエの鉢を置いて部屋に入った。 「おかえり、ナミ」 「今日は奇数日だろう? マンガ喫茶でシャワー浴びて来な」 って、二百二十円もらった。 風呂がないかわりにマンガ読み放題だって聞いたのに、二百二十円で利用できるのは三十分だけだった。 なんで浮気のこと言っちゃったんだろう。 こうなるってわかってたら、波風立てなかったのに。 そうだ! 目が覚めると同時に、閃いた。 わたしにはタイムマシーンがある! 6月6日に戻って、わたしに会って、浮気のことは言わないようにクギを刺す……。 OK! それだ! やってみよう! 校門から昇降口へ、そのままチャリで突っ込んで廊下をダッシュ! 規制線を超えて進路指導室のドアを開けると、そこにはタイムマシーンが―― ない! タイムマシーンがない! いったいなぜ!? どうして!? ホワーイ!? アタマのうえにハテナマーク30個浮かべてると、空間がきらめき始めた。 空間が歪んで、その隙間から亜空間が見える! 光のなかにうっすらと実体化し始めたタイムマシーンが、爆風を伴って出現! って、どうして!? カオルひとりで、抜け駆けしてなにかやってたってこと? 爆風で舞い上がった書類がハラハラと舞うなか、タイムマシーンのドアが開いた。 鈴を転がすような笑い声。 続いて―― 「ね? 本当だっただろう?」 タイムマシーンのなかに見えたのは、レイカと華鳴池くんだった。 ふたりで……。 レイカがわたしに気がつく。 「あら、あなたも来たの?」 逃げ出したい。 こんな景色、見たくもない。 「ああ只野――」って、華鳴池くん。 レイカに見せた笑顔のまま、わたしに振り向く。 「タイムマシーンのこと、三千堂も知りたいって言うから」 って、悪びれもせずに言ってのけるけど、どこに行ってたの? ふたりきりでなにしてたの? どのくらいいっしょにいたの? 「こんどはわたしが使うから、すぐに降りてください」 「なんで敬語? 妬いてるの?」 レイカが目を細めて笑う。 「降りて! 早く!」 「だめよ。あなた、歴史を変えるつもりでしょう?」 って、それがなに? 悪い? 「さっき三千堂とも話したんだけど、このタイムマシーン、みんなで相談して使うようにしたほうがいいよ」って、華鳴池くんまで。 「素直になりなさい、ナミ。テルがこう言ってるのよ? 嫌われてもいいの?」 なにその言い方。 わたし、華鳴池くんのまえだと何もできないと思われてるんだ。 手のひらで顔を覆うと足の力が抜けた。 「あーあ、もう。なんで泣くかなぁ、いっつもいっつも、ぴぃぴぃぴぃぴぃ」 レイカの声。 「わたし、間違ったこと言った? そうやって泣かれると、わたしが間違ってたみたいじゃない。迷惑なんだけど」 じゃあ、わたしが悪いの? わたし、なにか悪いことした? 「にゃあ」 猫の声が聞こえた。 「あ」って、華鳴池くんの声も。 ふと見ると、足元に黒猫のサバト。 「言ったとおりだ。本当にフラッと戻ってきた」って、華鳴池くん。 本当に……フラっと……。 でも……。あれ……? まって……。 宇宙戦争が起きるまえもたしかカオルが……。 ――マジでマジで。宇宙人攻めてきて宇宙戦争起きるよー。サバトもそう思うよねー―― って……。 だとしたら……。 「ねえサバト、今日もカオルとリコ、学校に来るよね?」 って、わたしが言うとどうなるの……? 「にゃあ」 「おいで」 華鳴池くんがサバトを呼んだそのとき、 「最終決戦だーーーーーーーーーっ!」 「押してるぞ人類ーーーーーーーっ!」 カオルとリコが進路指導室に飛び込んできた。 ――間違いない! ――これすべて、サバトが実現させてる! ――ってことはつまり! 「うん! あとはサバトがなんとかしてくれる!」 そういうことでしょ? サバト! 「そう、残存部隊はサバトに任せるとして……」って、カオル。 あ、まって。任せるとして? 「母星から大量の援軍が来る可能性がある」と、リコ。 「うっかりしたこと言っちゃダメ!」 「そうだよね、サバト!」 「にゃあ」 サバトもにゃあじゃなくって! 「しかも! サバトでも太刀打ち出来ないような大軍が!」 「にゃあ!」 「ぎゃあああああああああああああああっ!」 「どうしたの、ナミ?」 「なんてことしてくれるのよふたりともーっ!」 「なに怒ってんの?」 怒るよ! それは! 「それで、さっき三千堂とも話したんだけど」 って、華鳴池くんもちょっとだまって聞いてて! 「過去に遡って、防衛大臣を殺害、華鳴池くんのお祖父様、華鳴池テルカモを防衛大臣につけて、軍備を推し進めるの」 「ああ、こうなるまえに宇宙軍を整備して対抗する」 だから、ちょっとまってよ! 「そういうこと、みんなで相談して決めるって、さっき言ってなかった?」 「オカルト部、賛成です!」 はあーーーーーっ!? 「飼育部も異論はありません!」 ちゃんと議論しようよーっ! 「あとは帰宅部」 わたしぃ!? 「只野ナミ! あなたはどうなの!?」 只野ナミ……。 みんなのなかでは、わたしはまだ只野ナミだった。 「わかったよ――」 ここにいればまだ、もう少しだけ只野ナミでいられる。 「わたしも賛成」 「さっすがわたしたち!」 リコが拳をあげて、カオルがあわせる。続けて、レイカ、華鳴池くん。 「ナミも!」って、カオルが言うから、わたしも、仕方なく。 わたしは一縷の望みを込めて、サバトに聞いてみた。 「ねえサバト。わたし、明日一日だけ自由にタイムマシーンを使えるよね?」 「なーに抜け駆けしようとしてるの?」 「まったく、油断もすきもないなぁ」 「にゃあ」 その日もアロエを盗んで家に帰った。 偶数日だからシャワーもなしだった。 雨の降らない6月6日。 わたしは戻ってきた。 始業ベルのまえ、タイムマシーンを校庭に着陸させて光学迷彩、わたしは昇降口に走った。 玄関から滑り込むと華鳴池くんの姿があった。 「おはよう」 口先だけの挨拶。 横をすり抜けようとしたら、腕を取られた。 「まって」 なに? 「時間を操作したらいけない」 まって。知ってるの? 華鳴池くんの手はわたしを離さない。 「ぜんぶ知ってる。これから起きること」 「ぜんぶって?」 「宇宙戦争が起きることも、滅亡後の世界も、月へ行くことも」 あ、まってまって。わたし、そこまでは知らない。 「じゃ、じゃあ、ええっと、ふたりで日本創造することは……?」 口から出任せ。 「あのときはごめん」 あ、まって。ごめんってなに? これから何が起きるの? 「わたし、只野ナミじゃなくなるのよ?」 「どういうこと?」 そうか。わたし、華鳴池くんに両親の離婚のこと言ってないんだ。 「いまのわたしは、落田ナミ」 「そんな未来は知らない」 「そうだよ。言ってないんだよ、華鳴池くんには。言えないんだよ。だから変えたいの、こんな未来は」 「わからないな。たかが名前だろう?」 「そうだけど!」 「宇宙戦争でも、世界線の分裂でも、マイナス次元でもなく、そんなことを変えたいの?」 って、未来に何が起きるのよ、それ。 理科実験室。 暗い部屋に斜めの光。 わたしは少し離れて、からだを横向けた。 「華鳴池くんはどうしたいの?」 「どう? どうというと?」 「未来から来たんだよね? 宇宙戦争も、これから起きることもすべて知ってるんでしょう? なのにどうして、この時代に来たの?」 「大切な日なんだ」 「大切な日?」 華鳴池くんの姿は少しずつ薄らいでいく。 「俺の人生のなかで……いちばん……」 言葉も朧に、すきま風に溶け始める。 「どういう意味?」 最後は笑顔だけ。 口元のかすかな動きだけを残して、何もかも消えていった。 もうすぐみんな来る。 急いでタイムマシーンに戻る。 コクピットのパネルにはいろんな情報が描かれている。 わたしの脳波を読み取って? わたしが欲しい情報が次々と現れる。 やがて、通信が入る。 ――こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。おいでくださいましたら、『はい』へとお進みください なにこれ……カオルの声……? どうしよう。 ――はい。 胸の中に紡ぐと ――イタズラじゃないって―― カオルの声が返ってきた。 ――イタズラじゃなかったら、どういうことなの? こことオカルト部の部室とがつながってるんだ……。 ――今度はナミが聞いて ――それじゃあ、ええっと……お父さんが浮気してるみたいだけど、お母さんに言ったほうがいいかな…… わたしの声。 でもだめ! ぜったいだめ! 「いいえ」 強く! もっと強く訴えなきゃいけないのに、「いいえ」しか言えない! また次の質問。 ――ナミの下駄箱にガーベラをいれたひとの名前をお教えください わかんないよ! 毎日お風呂に入ってても体臭気になるのに、二日に一度になるんだよ!? それでも過去を変えちゃいけないの!? 華鳴池くん! 教えてよ! いつか! その意味を!4 ドキドキ・シリアス展開
2023年、7月7日。計画は始まった。 遡ること7年前、前防衛大臣が茂原カントリー倶楽部でゴルフをした記録があった。 華鳴池くんは前大臣のビデオを再生する。 「これを見ながら、大臣のすぐとなりにタイムマシーンをワープアウトさせる。あとはドアを開けて、刺すだけだ」 「警備は大丈夫かな?」 「こういうのはニコニコして近づけばいいのよ。警戒されるまえに相手の懐にはいれば、簡単に命を取れるわ」 と、レイカ。 「だれが実行する?」 と、カオル。 「わたしがやるわ」 こともなげにレイカが答えた。 「ヨーロッパ戦線では毎日のように死者が出てるのよ? 放っておけば援軍も来て、地球は滅ぶんでしょう?」 「そうだね」 「それに、みんなで決めたことでしょう? 殺す、って」 「いい、レイカ、よく聞いて」って、リコ。 「刺したら、まっすぐ引くんじゃなくて、腹の中で刃をねじって、横に裂くの」 「あ……」 レイカ、一瞬戸惑う。 「わかってるわよ、そのくらい」 「やってみて。手首にスナップを効かせて、刃先が遅れないように、えぐるように裂くの」 市営グラウンドに落ちた宇宙船は広範囲に規制がかけられていたけど、タイムマシーンを持っているわたしたちにはむしろ好都合だった。宇宙戦争がはじまるまえに戻って、また現在に戻れば、だれもいない宇宙船のなかを自由に探索することができた。 内部はかなり破壊されていたけど、まだ動く部品は残っている。 「これをコンツェルンの軍事部門に分析させる」 「軍事部門があるの?」 「あるというか、あった。極秘裏にね。40年前に合衆国政府にみつかって解散させられたけど、そのチームにこれを見せれば興味を持つよ」 40年前と言えば、ちょうどバブルの時期だ。 「あの頃の日本の経済力をもってすれば、宇宙軍を持つのも不可能じゃない」 7月10日。 レイカはラケットを大型のサバイバルナイフに持ち替えて、5人でタイムマシーンに乗った。 上空から俯瞰してゴルフ場の全体像を確認。時計を見ながら、目的の8番ホールへと移動。 レイカの緊張が伝わってくる。 「1分前」 目的地へと向けて高度を下げる。 「30秒前」 一瞬だけドアをひらき、レイカがグリーンに降りる。 機内には緊張が満ちるけど、レイカは落ち着いた様子でターゲットに近づいていく。 大臣が振り向いたときにはレイカと大臣の距離は1メートル。大臣の足が止まる。 実行4秒前。レイカは右手にもったタオルでサバイバルナイフを隠している。 2秒前。警備員が駆け出す。 1秒。レイカのバックスイングから、サーブ。突き刺した。大臣が尻もちをつく。 「失敗」 リコが小さくつぶやく。 「浅い。あれじゃ致命傷にならない」 大臣が叫び始める。レイカはナイフを振り上げ、二撃目を浴びせようとしている。 「止めて! 華鳴池くん!」 わたしが言うと同時にステルス解除。ドアが開く。 「レイカ! もういい! 乗って!」 レイカの手を握ってマシーンに引き上げると、その肩はガタガタと震えていた。 機体を上昇させながらステルスモード移行、外では銃声が聞こえる。 レイカの震えが止まらない。 カオルが抱きとめて、大丈夫、大丈夫と言って聞かせてるけど、レイカは必死に震える右手を抑え込んでる。 あのレイカが、こんなにも震えてる。 ニコニコして近づけばいい、みんなで決めたことでしょうって、笑いながら言ってたレイカが、唇を白くして。 右手にはリストバンド。 テニスの試合のときにいつもつけてる赤いリストバンド。 わたしの胸のなかに過った―― ――レイカはこれから、テニスコートに立つ度に今日のことを思い出すんだ、って。 もとの時間に戻って、ネットを漁ってみると7年前の防衛大臣襲撃のニュースがあった。一時は意識不明に陥ったが、幸い一命はとりとめたとあって、わたしは胸をなでおろした。 アパートの部屋のまえにはアロエの鉢がもう20を超えた。 「なんか、アロエがどんどん増えていくんだけど、お隣のかな」って、お母さん。 アロエが増えてることは気がついてるみたい。 「うん。隣だよ。こないだ三輪車も勝手に停めてたし」 レイカはしばらく搭乗グループから離れた。 40年前の華鳴池軍事工廠から技術者を連れてくることには成功。 招待された四人の技術者は二年がかりで戦艦を解析。わたしたちは二年後の世界へ飛んで、そこから技術者をまた過去に返した。 家に帰ってテレビをつけると、月の前線基地建設のニュースが流れた。 懸案の防衛大臣は、華鳴池コンツェルンが力をつけると、歴史も書き換わり、華鳴池テルカモが長官の座についていた。 7月20日。本当なら一学期最後の日。 地球周辺の5 ドキドキ・終末生活
焚き火と夕焼けの間で目を覚ました。 波の音が聞こえる。 焚き火の向こう、華鳴池くんが本を読んでる姿が見えた。 「だいじょうぶか?」 読んでいた本を下げて、華鳴池くんが振り向く。 「ここはどこ……?」 「わからない。気がつくと俺も海岸に倒れてた」 「この荷物は?」 「近くに町がある。そこから持ってきた」 「持ってきた? 買ったんじゃなくて?」 「町は廃墟だ。そこらじゅう死体だらけで、野犬がうろついている」 華鳴池くんはテントをもうひとつ組み立てながら、 「ここ、持って」 って、布の端っこを差し出す。 「バサっといくよ?」 「バサっ?」 華鳴池くんがポール? を組むと、テントは一気にバサっと広がった。 「キャッ!」 「だから言ったのに」 次の日、華鳴池くんとふたりで、町に買い物にでかけた。 カートを押して、電池、照明、カセットコンロ、缶詰、調理器具、手当たり次第に漁った。 「こういうの、食べたことある?」 華鳴池くんはレトルトのカレーをわたしに見せる。 「カレーでしょう? 華鳴池くん、食べたことないの?」 「どうだろう。調理されたものしか見たことがないから、これかもしれない」 いや、おかしくない? 「じゃあ、今晩食べてみよう!」 「ああ、うん。でもこれ……どうやって食べるの?」 って、そこから? 「だいじょうぶ! わたしが料理してあげる!」 その晩作ったカレーは華鳴池くんのハートをガッツリとつかんだ。 「料理、得意なんだね」って。 「うん。カレーは得意」 ふたりの暮らしが始まって何日くらい経っただろう。 少し離れたとこの断崖に湧水をみつけた。 「今日から真水で体を洗える」 って、華鳴池くんはその場で頭を洗い始める。 水に濡れたシャツが透ける。 華鳴池くんがわたしの手を取った。 濡れた髪から雫が滴る。 もう目があっただけでドキドキするようなこともないけど、手を取って引き寄せられると、なんかもう無理だった。 「只野の番」 そう言って肩に手をかけられて、水の下に押されるとときめいた。 おでこから後頭部へ、大きな手のひらが髪を撫でる。 「シャンプー取りに行こうか」 「いいよ今日は。それよりいま必要なのはタオル」 わたしが言うと、「そうかな?」って、華鳴池くんはシャツを脱いで水を絞って見せた。 「女子はそうはいかないよ」 わたしがシャツの裾をひっぱって絞っていると、両手で目の前にシャツを広げて、 「ほら。これで見えないから、只野も脱いで絞ればいいよ」 って、髪に滴る水を手首で拭った。 「ほんとに見ない?」 広げたシャツの上で、華鳴池くんの顔がうなずく。 そしてわたしがシャツの裾をあげようとすると、いたずらにシャツをずらして見せる。 「ほらー。もー」 「うそうそ。冗談。ぜったい覗かない」 「ホルスタインって、乳牛だよね?」 ふたり、サバイバルナイフを持って、野生化した牛の背後につけた。 「そうだけど、背に腹は換えられない」 あんまり警戒してないから近くまでこれたけど、牛、大きい。 「にゃあ」 にゃあ? って、猫? 黒猫が牛の背中から降りてきた。 「サバト!?」 「サバトって……?」 「オカルト部に居付いてた猫!」 そしてたぶん、今回の事件の黒幕。 息を切らして追いかけると、サバトは時折足を止めて、わたしたちを待った。 そうしてたどりついたのは、広いサボテン公園。 追いかけて錆びたアーチをくぐると、そこは一面のアロエ畑。 乾いた砂利を踏んで丘を登り詰めると、泥に塗れたカッパの像があった。 「オカルト部長……」 「部長?」 「そう、わたしたちの学校のオカルト部の部長! カッパの像なの!」 カオルが修理したあともある。間違いない。 「それで、どうするの?」 「テントに戻ったらコックリさんやる!」 「コックリさん!?」 『その必要はない……』 「だれ?」 「だれって、只野がひとりで喋ってるんだよ」 「わたしが?」 『そう、コックリさんの必要はない。ココロを開くがいい』 ほんとだ。わたしがカッパのセリフまで喋ってる。 「あ、まって。部長が割れたとき、カオルがアテレコしてたことあったけど」 『アテレコではない……わしが喋っておるのじゃ……』 「只野、だいじょうぶ?」 って、アタマいかれたと思われてる! 「形だけでもコックリさんにしてもらえませんかっ!?」 『うむ。よかろう』 「少し休んだほうがいいんじゃない?」 テーブルに製図用紙を広げて、五十音の表を書いた。その上には鳥居の印。左右に、はい、いいえ。五十音の下には0から9までの数字。 「こっくりさん、こっくりさん――」 呼び出しの言葉をあんまりよく覚えてなかったけど、言ってる途中でコインは「はい」へ動いた。 「レイカはどうなったの?」 華鳴池くんが聞くまえに、わたしから聞いた。 答え。レイカは別の世界をいくつか彷徨って、いまは元の世界で楽しく修学旅行の準備をしている。 「じゃあ、この世界にいるのは、本当にわたしたちふたりだけ?」 ――そうなる。 「でもふたりだけじゃ……たとえ俺たちがアダムとイブになったとしても――」 って、華鳴池くん。 華鳴池くんは、わたしのこと意識してないのかもしれない。わたしの胸に刺さること、ストレートに尋ねる。 いろんなことを聞いた。 雨が降り出して、華鳴池くんのテントに入った。 いつの間にかわたしはうとうとして、気がつくと横になって毛布がかけられていた。 朝方。 「――もしもーし! もしもーし!」 カッパ部長の呼び声で、目が覚めた。 「どうしたんですか、部長……」 「――やっぱりナミね! わたし! カオル!」 「えっ? カオル? なんで?」 「――コックリさんにあなたのこと聞いたら――」 「聞いたら、なに?」 「――只野ナミだったら、いま俺の隣で寝てるぜ――って」 言い方。 「――なんか、そっちは別時間軸なんだって?」 「いや、わかんないけど、別時間軸?」 「――こっちはいま防衛戦の佳境! 人類滅亡までもう間もない感じ!」 ええっと、それって…… 「ここより少し前の時代、滅亡直前の地球ってことじゃないかな」 華鳴池くんが体を起こして割り込んでくる。 「こっちはおそらく、そちらの数年後の世界だ」 華鳴池くんが応答する。 ――ガガー。ピィーッ。 「――あ、まって。いまのだれ?」 「華鳴池だ。こっちではもう人類は滅亡して只野と俺しか残っていない」 ――ガガーッ! ピィーーーッ! ピガガガガ…… 「――ですってぇーーーっ!?」 ノイズで聞き取れなかったけど、カオルの動揺は伝わってきた。 「――ブラボーッ! でかしたぞナ――ガガガーッ キュイーッ」 「まって! すぐに助けに行く! こっち、サバトがいるの!」 「――それじゃーっ! なんか重力粒子線が迫ってきてるから――」 なにそれ。 「――切るねー」 電話かよ。 次の日。 町に可愛いパジャマを買いに行った。 そして夜。意を決して、枕を持って華鳴池くんのテントへ。 「あ、あのね、華鳴池くん」 華鳴池くんのパジャマは水色の水玉。わたしもそろえて、ピンクの水玉買ったんだ。 「どうしたの?」 「カッパ部長に人類の最後の話聞いてたら、怖くなって……」 よくよく考えると、華鳴池くんがわたしになびくなんてないし。遠慮してもじもじしてもしょうがない。 「――それでね。明日から、野菜を育てようと思う」 焦りすぎだ、わたし。話題が支離滅裂。 「ああ、それはいいね」 あ、ちゃんとついてきた。 「それで、野菜の育て方、いろいろ調べたから」 野菜のことたくさん話して、眠くなって、ふたりすこし離した布団に入って、ドキドキして寝付けないでいると、華鳴池くんのほうから聞いてきた。 「只野さあ。俺のことを好きだって聞いたんだけど――」 いきなり来た! 「あ? え? って、誰から? どういう意味で? 友達として?」 こっちに興味ないせいか、いちいちストレートで調子狂う。 「最初はふーんって感じだったけど、なんか、いいな」 「い、いいなって、なにが?」 「只野」 「わ、あ、それはええっと、と、友達として?」 「わからない。でもなんか。いい。話しやすい」 それ、どう受け止めていいんだろう。 「野菜、何から育てる?」 あ、うん。そうそう、野菜。 静かに話していると、華鳴池くんの声は少しずつ小さくなって、沈んでって、最後には顔を覆った。 「みんな死んじゃったんだな」って。 声が震えてる。 「ふたりで生きていくしかないんだ」 泣き声に変わる。 「情けないよ。毎晩泣いてんだよ、俺」 「情けなくないよ! わ、わたしだってひとりだとずっと泣いてるし、だから寂しくてこうやって来たんだよ? つまり、わたしのほうが寂しがり? みたいな」 って、言ってみたけど、じつはわたし、案外この生活を楽しんでた。 「だいじょうぶだよ」 そう声をかけて、華鳴池くんの布団に潜り込んだ。 だって、寂しかったし。 腕にしがみつくくらいなら、もういいよね。 と思ってたら―― 「只野……」 華鳴池くんのほうからわたしの肩に顔を埋めて、静かに悲しみを飲み込んだ。 朝。 華鳴池くんは着替えを終えて、木陰に置いたデッキチェアで園芸の本を読んでた。 「おはよう。昨日はごめん」 「別に謝るようなこと、なにもしてないよ」 「弱みを見せた。只野を不安にさせたかもしれない」 「いいよ。弱みくらい。いつでもどうぞ」 小さな笑顔を作ると、華鳴池くんも小さく笑った。 やった! いまのちょっと、ドラマっぽかったっていうか。 自分のテントに戻ると、ひとり残されたカッパ部長が声をかけてきた。 「――やっと見つけた」 見つけた? 「あなたは?」 女のひとだ。カオルやリコより落ち着きがある。 「――いろんな言い方があるわ」 なにその言い方。むかつくんだけど。 「いま忙しいの。あとでもいい?」 「――あなたのお父さんの浮気相手。と、言えば、わたしの話、聞いてくれるかな?」 ああ? はいい? その浮気相手がなんで? 「い、いまどこにいるんですか!? 人類は滅びたって聞いたんだけど!」 「――月面基地がまだ生きてる。わたしはそこ」 「月!? でも、月の基地も破壊されたって……」 「――再建したの。10年かけて」 「10年かけて!?」 「――わたしは、10年後のあなた」 「はあ? なに? わけわかんない。浮気相手って言ったじゃない。はあ? わたしが? はあ?」 「――落ち着いて」 「ていうか、わたしお父さんと不倫するの!?」 「――それはあなたが勝手にそう思っただけ」 「でも、メール見たし!」 「――あなたに接触する必要があったの。事件を起こす前の」 「事件って?」 「――宇宙戦争を招いた」 「それ、わたしのせい?」 「――原因はさまざま。だけど止めるにはタイムマシーンが必要。人類は10年かけてようやく最終兵器を完成させた。これをあなたたちの時代に送る必要がある」 「でもわたし、タイムマシーン壊しちゃった」 「――知ってる。だけどそっちにはサバトがいる」 「ああ、うん。ていうか、あの猫、なに?」 「――あれが、地球の叡智の結晶、猫型時空間振動収束装置、サバト!」 「ね、猫型なんたらかんたら……サバト!?」 「――ポキール星人のタイムマシーンは時間を超越するだけ。だけどサバトは時相軸を超える。すなわち、どんな世界線であれ自在に行き来できる」 「すげー」 「――だから、サバトを見つけたら元の世界をイメージして、それを伝えて」 「わかった……でも……」 「――でも?」 「わたし、もとの世界に戻りたくない」 「――わかる。まあ、過去のわたしだからな。華鳴池くんとアダムとイブになる気でいるんだろう?」 さすがわたし。ぜんぶお見通し。 「――でもその世界、電気がないのよ?」 電気くらい! 「電気なんかなくても、華鳴池くんとふたりで乗り越えるっ!」 「――違うって。世界中の原子炉が次々とメルトダウン起こすの。まともに生きていけるのはせいぜい数年。どうやってアダムとイブになるの?」 「…………」 「――ちゃんと聞いてる?」 わたしバカだけど、メルトダウンはたぶんダメなやつ。 「……わかった。最後に質問させて」 「――ああ」 「あなたは……華鳴池テルと結婚してますか?」 「――残念ながら」 そうか。まぁ、そうだよね。わたしだもんな。 「――AIが恋人だ」 めっちゃ寂しい人生じゃん。 「レイカは? 三千堂レイカ。あの子はどうなった……?」 「――三千堂レイカ……あの子は……」 「あの子は? あの子はなに?」 「――なんでもない。言うと歴史が変わる」 「もしかして、華鳴池くんはレイカを選んだの!? わたしじゃなくて!?」 「――いまは言えない。とにかく、サバトを探して! 元の世界線に戻って!」 「あのね、華鳴池くん」 急いでパジャマを着替えて、テントを出た。 「どうしたの?」 「元の世界に戻らないとダメみたい」 「えっ? どうして?」 「わかんない。サバトを見つけて、タイムマシーンがあった世界に戻るしかない」 ていうか、すぐに見つけないと、わたしたち死んじゃう。 「カッパ像に聞いてみる? サバトの行方」 「いや――」 あいつ、宇宙船のなかにいっぱいいたし、もとは宇宙人の機械なんだ。この先はもう、頼るのはまずいよ。 と、そこに―― ビーッ! ビーッ! ビーッ! 強めのアラート。 「なにこれ?」 「テントからだ」 とか言ってたら、テントのなかからレーザー光がほとばしる! レーザーは間一髪わたしと華鳴池くんから逸れたけど、何が起きてるの!? テントの中からアナウンスの声が聞こえる。 ――敵性思考検出。排除します。 ――敵性思考検出。排除します。 またまたレーザー。 テントが焼け落ちて、カッパ部長が姿を現す。 「わたしの脳波を読み取られた!」 「何あれ? ロボット?」 「わかんないけど、逃げなきゃ!」 ――アロエ園方面に逃げて……逃げて……げて…… 頭のなかに声が響いてきた。 「こんどはなに!?」 ――わたしは7万年まえの……まえの……えの…… こんどは7万年前の!? ――あなた……なた……た…… またわたし!? っていうか、7万年まえ!? レーザー光の熱で舞い上がったタオルがカッパ部長の目に張り付く。 「いまよ!」 アーチのまえ、指示されるとおり道を折れると、海岸へ向かう坂道。 遺跡に達すると、自然の岩壁が音を立てて開き始める。 「なかに武器があるって!」 「武器?」 「壁に塗り込められてる!」 華鳴池くんがポケットからナイフを取り出して壁を削り始めるけど、入り口に逆光でカッパ部長の姿が見えた。 「急いで!」 暗い室内にレーザーの赤い光が閃く。 が、その光はわたしのすぐとなりの埴輪を直撃、粉砕した。 カッパ部長の目が赤く光る。チャージ完了。 掘っていた壁から棒状のものが出てきた。 早く! 次の攻撃が来る! 「取れた!」 「字が書いてある!」 ――緊急……停止……装置…… 「わかった! 先端を! 敵に向けて! このスイッチを!」 カッパ部長がレーザーを放とうとした一瞬先、緊急停止装置から発射された電磁パルスが部長に浴びせられた。 ふたり、アロエ園に戻ってベンチに座った。 「あのね、華鳴池くん」 「うん?」 「戻りたくないんだ。元の世界になんか」 たぶんこの感覚は、華鳴池くんにはわかんないと思う。 「うち、貧乏でね。お風呂、二日に一回なの。しかもマンガ喫茶でシャワー。信じられる? わたし、そんな世界に戻りたくない」 華鳴池くんは、うん、またひとつ、うん、うなずきながらわたしの言葉を飲み込んだ。 「でもさ。こっち来てまだ二週間かそこらだろう?」 「うん。たぶん」 「今は夏だし、湧き水にも入れるけど、冬は暖を取れるかどうかすら怪しい」 「たしかに」 「もしふたりに子どもができてさ――」 やっぱりドキッとする。そういう話題。 「――あ、ごめん、そういうつもりじゃなくて」 「いや、いいんだよ。そのつもりだ、って言ったはずだよ」 「……やっぱ、いいや。戻ろう、元の世界に」 「そうだね」 「本当ならもうすぐ修学旅行だろう?」 「そう! 修学旅行!」 「それが終わったら、あとは受験勉強」 「うん! わたしもこんな地球なんかさっさと離れて、修学旅行に行きたい!」 「にゃあ」 にゃあ? 見ると足元にサバトがいた……。 「いまわたし、なんて言った?」 「こんな地球なんか離れて――」 地球なんか離れて―― 「修学旅行に行きたい――」 空気が震えだした。 振り仰ぐと、上空に大きな雲の渦がある。 その中心へと向けて、巻き上げられた瓦礫やアロエが集まっていく。 雲の切れ間から幾重にも光が降り注ぎ、やがて漆黒の巨大な宇宙船が姿を見せた。 「これは、なに?」 サバトに尋ねる間もなく、わたしと華鳴池くんのからだは宇宙船に吸い上げられていった。6 ドキドキ・修学旅行
宇宙船のなか。 「よかったぁ~、間に合って!」 「ナミと華鳴池くん、修学旅行お休みかと思っちゃった」 って、カオルとリコ。 「ま、ふたりにとっては、わたしたちはお邪魔かもしれないけどね!」 って、結局はその話? 「いいよね! ナミは!」 「ラブラブだったんでしょ~?」 環境に慣れるの、早いよ。ふたりとも。 「ところで、宇宙戦争はどうなったの?」 「そう! それよ! 聞いて!」 「ついこないだ、人類滅亡の寸前まで追い詰められてたの、わたしたち!」 うん。あの通信が入ったころでしょう? 「で、そのあとどうなったの?」 「助けに来てくれたんだ、ボラギノール星人が!」 「一瞬で蹴散らしてくれたの!」 「しかもしかも! 地球の復旧にも協力してくれて、友好の証としてなんと!」 「わたしたちの中学とボラギノール星第一中学とが姉妹校に!」 「姉妹校に……?」 「いやぁ、いいねぇ、姉妹校」 「そうそう、修学旅行は諦めてたら、ボラギノール星の修学旅行に参加させてもらうことになっちゃった」 なんだそれ……。 「ここだけの話――」 カオルが耳元に顔を寄せる。 「――華鳴池くんレベルの男子がゾロゾロいる」 えっ? でも…… 「相手は宇宙人でしょう?」 「ノープロブレム!」 「向こうは霊体みたい」 はあ? 「だから、肉体は自在。どうにでもなるって」 どうにでも? 「それで地球人の肉体を参考に仮のボディを作るって言うから、アイドルの写真バンバン送りつけたの!」 「ナミも後悔するよー。華鳴池くんよりイイ男いっぱいいるよー」 『ピーーーーーーーッ!』 響き渡るホイッスル。 「それじゃあ、全員揃ったな!」 数学の矢口先生の声とともに、あたりは通い馴れた中学の景色に差し替わった。 校門の向こうにはバスが6台。 「いやっほーう!」 カオルが拳を上げる。 「満喫するぜーっ!」 バスが走り出すと、リコとカオルは京都のガイドブックを広げる。 「バスのなかで読むと酔わない?」 「平気平気! だってほら、うっぷ……」 「見て、この店! うっぷ……」 そんなことより。 「ところでさあ。タイムマシーンどうなったの?」 「ああ、あれねぇ、軍に接収された」 「接収されたぁ!?」 「見てこれ! この店の抹茶パフェ!」 タイムマシーンより抹茶パフェ!? 「ほら、ナミが好きななんとかって声優! あのひとも配信してたよ、このパフェ!」 「あ……あのときのパフェ……?」 「そう! ちょっとお高め、千二百円!」 「ちょっとじゃないよ……千円超えてるじゃん……」 修学旅行のお小遣いは、上限五千円って決められていた。 リコもカオルもきっと五千円持って来てる。 だけどわたしは二千五百二十円。 お母さんに言ったら、 「五千円は上限でしょう? うちにはそんなお金ないよ」 って、二千円だけもらった。 あとの五百二十円は貯金箱開けた。 「ハァ……」 「どうしたの、ナミ、溜息なんかついて」 華鳴池くん、いちばん後ろの席でテニス部のワナビーに挟まれて、わたしの隣は冴えないムサ夫。って。あれ? レイカの姿がない……。 「レイカはどうしたの?」 「あの子は謹慎中」 「謹慎中って?」 「うん。ゴルフ場の件、あったでしょう? それで」 カオルが通路から身を乗り出して、わたしに顔を寄せる。 「わたしたち、あの場にはいなかったことになってるの。だからこの件も知らんフリしてて」 ……って。 「しょうがないじゃん。わたしだって人生棒に振りたくはないもん」 「ごめん、わたし、鴨川が見たいの」 バスを降りて市街地に向かうカオルとリコに言った。 「鴨川ってただの川だよ!?」 「うん。まあ、そうなんだけど」 「わかった! もしかして……鴨川で華鳴池くんと待ち合わせ!?」 「そ、そんなんじゃないけど!」 「図星だ! 赤くなった!」 赤くなってない。 わたしとカオルたちとの間には、二千四百八十円の壁があった。 いっしょに買い物なんて。と別行動にはしたけど、鴨川も早々に飽きて四条通りへ。 交差点をいくつか曲がると、話題のカフェが目の前にあった。 こないだ配信で見たパフェのサンプルがガラスの向こうで輝いている。 ため息を漏らしていると、 「只野さんもそのパフェ食べたいの?」 肩越しに少しキョドった声が聞こえた。 振り返ると、バスで隣に座ってるムサ夫、7 ドキドキ・学園祭
学園艦の長い廊下を抜けると教室であった。 「奈落に落ちかけたとこ助けられたんだよ、あいつに」 クラスは学園祭の準備でもちきり。巨大迷路制作用のダンボールが大量に持ち込まれている。 「わたしだって、あんなやつに助けられたくなかったけど、だからって死にたくはないじゃん。あーもうキモッ」 校門にはもう学園祭を彩るアーチが出来上がっていた。 各クラスで割り当てたペーパーフラワーが鮮やかなグラデーションを見せる。 ダンボールが足りなくなって、カオルとリコと街へ出ると、商店街はがらーんと静まり返っていた。 「これ、レイカじゃない?」 と、リコが投稿サイトの動画を見せた。 目線を黒く塗られた少女が偽のエグザイルに囲まれて、メントスをくわえたままコーラを一気飲みする動画だった。 「県大会、予選一回戦敗退だからね。そこからおかしくなっちゃったみたい」 「ラケット握ると、手が震えてたもん。あれじゃ無理だよ」 それからレイカは偽エグザイルの部屋に入り浸って、知らない味のうまい棒を食べて、ハッピーターンの粉だけ舐めるようになった。 「負け犬ってこのことよね」 「自業自得だよ」 って、ふたりは言うけど、ゴルフ場の事件のせいだ。 でもそれは禁句。ムサ夫のことで淀んでた空気がやっと晴れたんだ。ここで口にしたらまた面倒なことになる。 ダンボールをふたりにまかせて、わたしは駅前のスーパー。 入り口には偽ザイルがたむろしていた。 店に入ろうとすると、ずっとこっち見てる。 「なにか欲しい物ある?」 「あの……カッターナイフとガムテープ」 ほんとは答える義務もないんだけど。 「なかは関係者以外立ち入り禁止なんだ。取ってきてやるからまってな」 「事務所があっちにあるんで。お茶でもどう?」 「やっぱりいいです。他の店に行きます」 「なんで? 親切を踏みにじるの?」 気がつくとまわりをぐるっと囲まれて、偽ザイルは変なダンスを踊り始める。 「どう?」 って、うまい棒を差し出してくる。 これじゃまるで『AIが考えたエグザイル』じゃない。 「あ、ありがとうございます」 って、断れよ! わたし! 見渡すと、少し離れてエグザイルにあるまじき醜い人影があった。 ムサ夫だ。 どうしよう。 「だれ? 知り合い?」 小さくうなずくとムサ夫がこっちに歩いてくる。 ムサ夫はわたしの横まで来ると手を取って、 「行こう」 って。 でもどうしよう。 戸惑っていたら鈍いゴッという音が聞こえて、ムサ夫が膝をついた。血が滴る。 「ああ、ごめん。ぶつかったみたい」 「そんなとこにいるから肘が当たるんだよ」 偽ザイルはにやけた笑いを浮かべている。 コイツを足蹴にして偽ザイルに媚びれば、わたしは助かる。あいつらの部屋で知らない味のうまい棒食べるほうが、殴られるよりずっといい。 戸惑っているとムサ夫が顔を上げる。 「ナミさん。僕は、あなたのためなら死ねる」 ムサ夫の手にはナイフが光る。でもちょっとまって。そんな風に好きになられても困る。口の血を拭って、立ち上がって……が、偽ザイルの運動神経が上回った。一瞬でムサ夫の手からナイフを奪い取ると、その腕を背中にひねり上げた。 「ねえ、彼女。彼氏の不始末、どうしてくれるの?」 と、そのとき、銃声が聞こえた。 同時に偽ザイルのひとりの胸から赤い血がアーチを描く。 警戒して背を屈める偽ザイルたちを、小銃を構えた背広の男たちが現れて取り囲む。 偽ザイルはナイフを捨てて手を挙げるけど、背広男は容赦ない。一人ずつ至近距離で頭を撃ち抜く。 そのあとで、 「安全確保いたしました。テル様」 無線機で連絡を取る。 ――テル様? 駅通りの方から華鳴池くんが姿を見せた。 「だいじょうぶか? 只野」 「だ、だいじょうぶだけど、これって……なに……?」 「俺の個人的なボディーガード」 ボディーガードって……小銃持ってるんですけど……? それに―― 「大人はこの艦には乗ってないはずでは?」 「学園内での便をはかるため、特別に学生証を持たせている。ああ見えても高校生だ」 いや、それ、わたしはいいけど、ポキール星人はそれで納得するの? 「只野さん、冷たいんだなぁ」 公園でアイスを食べながらムサ夫は言った。 「そう? わたしこれでもよく気が回るって言われるんだけど」 助けてもらったお礼にアイス盗ってきてあげたんだから、冷たいなんて言われる筋合いはないもん。 「ショックだなぁ」 「だったらわたしなんかと関わんなきゃいいのに。そうすればわたしもこんな嫌なセリフ吐かずに済む」 「ほぼ同じことを三千堂さんから言われた」 レイカに? 「わたしが酷いこと言うのはぜんぶあなたのせいって」 「わたしはあの子とは違う!」 「そうかな。僕にとっては同じだよ」 「それはあなたが……!」 「僕が? 僕がなに?」 「それは……」 「言っていいよ。ブサイクだからって。小学校の頃から言われて、慣れてるから」 「言ってないでしょ、そんなこと!」 「でも、顔ってそんなに重要じゃないと思う」 ムサ夫はブサイクな顔の割れ目に張り付いたタラコで喋り続けた。 「だって、家族も親友も顔で選んだり分け隔てたりしない。彼氏彼女だからって顔が重要だなんてことはないって……」 学校に戻ると、学園祭のアーチが壊されてた。 黙々と修理する生徒たちのなかに、リコとカオルの姿が見える。 「どうしたの、これ」 「少女Aがやったんだよ」 知らない男子生徒が答える。 「レイカのこと。みんなそう呼んでる。少女Aって」 「どうして?」 「殺人未遂犯だからね。退学になってないのが不思議だって」 「いいの? わたしたち、これで――」 わたしが言いかけた言葉を 「いいのよ!」 って、カオルが大声で制する。 それ以上なにも言わなかったけど、ゴルフ場のことは喋るなってことだ。 三人でわたしのパフェ代出しあった。ふたりとも修学旅行のお小遣い、半分しか使わないでいてくれた。ふたりを裏切る気はない。でもさ。 「でも、レイカだって辛いと思うよ」 「あんた、バカじゃないの?」って、カオル。冷たい目。 「いじめられてたのよ、あんた。気がついてないの?」 「わたしはべつに、そんなつもりない」 「ナミは優しいからー」ってリコ。呆れたような笑顔で、「でも、うっかりレイカ庇ってると、次にターゲットになるのはナミだよ?」って。 レイカのロッカーには大量の落書きがあった。 ババァ、整形ブス、脳筋女、尻軽、クソビッチ。 うまい棒をくわえてピースサインをする切り抜きもある。 わたしは耐えられなかった。その場で切り抜きを剥ぎ取って捨てた。 次の日、わたしのロッカーにも写真が貼られていた。着替えてるとこの写真。盗撮だ。すぐに剥ぎ取って丸めたけど、カオルもリコもなにも言わない。 ああ、そうでしょうよ! わたしを庇ったらつぎは自分だもんね! でも、カオルは知ってるでしょう? 見てたはずだよ! あのときレイカがどのくらい震えてたか! 学園祭当日。 わたしたちのクラスの立体迷路は閑古鳥が鳴いてた。 生徒の多くは講堂で開催されるスペシャルフェスに集まってた。 フェスにはバンドで出るひと、アカペラで歌うひと、コントを披露するひとがいて、そのなかにムサ夫――早江内スエキチもいた。 スエキチ・サウンド・ミーツ・パーティと題されたステージに、派手なキャップとサングラスをつけたスエキチが指をくるくるとまわしながら登場、DJブースに入るとともに爆音が轟いた。聞き覚えのある曲が小気味よくリフレインされる。そのリズムでからだを揺らすひとがいる。三年生もだ。スエキチのプレイで、学校のみんながからだを揺らしている。 図書室の『メルヘンカフェ』でハーブティを飲みながら、 「陰キャのくせに」 ってカオルが言った。 「なんかさ。落ち込むよね」 「落ち込むって?」 「ムサ夫、あの才能があるから、自信持って言えるんだ。顔は関係ないって」 「あんなの才能じゃないよ。他人の曲鳴らしてるだけだよ?」 「まあ、カオルはデキる子だけど、わたしには無理」 いろんなこと話して、しみじみとリコが言った。 「みんな『何者か』になりたいんだよね」 って。 「先生は『何者にもなれなくったっていい』って言うけど、何者かにならないと見向きもされない」 華鳴池くんは雲の上のひと。お月様。スエキチは泥に塗れたスッポン。だと思ってたのに。わたしがいちばんダメな子じゃん。 「あなたに庇われるの、迷惑なんだけど」 宇宙船のなかの作り物の校舎、作り物の屋上、作り物の空の下でレイカは言った。 「庇ってるって? わたし、あたりまえのことしか言ってないよ」 ひさしぶりに呼び出されたから、またテニスの試合とか言い出すのかと思った。 「言うようになったじゃない」 髪を染めて口紅を引いたレイカは大人びて見えた。 「ごめんなさい。わたしのせいで……」 制服の上には淡紅色のスカジャン。 「わたしのせい? あなた、いまのわたしをどう見てるの? それがあなたのせい?」 レイカはポケットからハッピーターンを取り出して、口にくわえた。 「テルとはどこまで行ったの?」 「どこまでって?」 「人類滅亡後の世界にいたんでしょう? ふたりで」 「とくになんもないよ」 「どうだか」 レイカの目は人差し指と中指とにはさんだハッピーターンを通して、遠くを見ていた。 「レイカはどうしてたの? タイムマシーンの事故の後」 「わたしは10年後の未来にいたわ」 「10年後!?」 それって、未来のわたしもいるはずの場所。 「だから、ぜんぶ知ってる」 「ぜんぶ?」 「これからわたしがどうなるか、ぜんぶ」 ――三千堂レイカ……あの子は…… ――あの子は? あの子はなに? ――なんでもない。言うと歴史が変わる。 「もしかして……?」 ……レイカ、死んじゃうの……? だから未来のわたしは、なにも教えてくれなかったんだ。 「わたし、あなたを助けたい」 「ハッ。おかしな子。急になにを言い出すの?」 レイカにかかわったらまたカオルとリコになにか言われる。 でも放っておいたらレイカは…… 「小学校三年のとき、ヘアクリップもらったよね」 「なにそれ、そんな昔の話、覚えてるわけないじゃない」 「赤いクリップ。可愛いって言ったらくれたの……」 「へぇ。それが?」 「わたしたち、友達だったよね! そしていまも! 友達だよね!」 「ハッ! そういうのをやめてって言ってるの、わからないかな?」 レイカはポケットからまたハッピーターンを取り出して、食べながら屋上をあとにした。 大人たちが消え、だれもいない職員室。 ここに平気で入れるのは、学級委員長や風紀委員、あとは何人かの成績優秀な子だけ。 それでもわたしは……わたしには……やることがあった。 ここが、人生の岐路だ。 真白先生の席の斜向い、矢口先生の席。椅子には上着がかけられている。 あたりにはひともいない。 わたしは矢口先生の上着から財布を抜き取った。 その足でオカルト部へ。リコもいる。 わたしは矢口先生の財布から抜き取った百円玉8枚を机の上に叩きつけた。 「あなたたちとは絶交する!」 「はあ? いきなりどうしたの?」 「そのお金はなに?」 「あなたたちに出してもらったパフェ代! これ、返す!」 「ていうか、そのお金どうしたの?」 「矢口先生の財布から盗んだ!」 「そこまでして絶交!?」 「ホワ~イ?」 「わたし、レイカを助けたい」 「またその話?」 「あの子、このままだと自殺しちゃう」 「いいよ。勝手に死なせておけば」 「もう聞かない! 絶交は成立したんだから、あなたたちの言葉なんか知らない!」 レイカだってそりゃあ悪いよ。 だからって放っておいて何があるっていうの? それにわたし、カオルとリコのせいで早江内くんにお礼も言ってない。 次の日、学校についてロッカーを見ると、相変わらず落書きと貼り紙でいっぱいだった。わたしのロッカーだけでなく、レイカのロッカーも……それに、カオルと……リコのロッカーも……? 「いやあ、派手にやられましたなぁ」 って、いつのまに現れたのか、リコ。 「うわ。盗撮写真だよ。どこで撮ったんだよ」 カオルも。 「どうしてふたりまで?」 「昨日、ナミのロッカーの落書き消してやったの」 「そうしたらこの通り。やられましたわー」 「カオル……リコ……」 「手ぇ出して」 言われるがままわたしが手をだすと、カオルとリコが温かくなった百円玉を4枚ずつ握らせた。 「これで絶交は不成立」って、カオル。 「やり返すよ、ナミ!」ってリコ。 「うん! やり返す!」 月曜朝の全校集会。 カオルとわたし、それからリコがマイクを持って朝礼台に立った。 目的は、防衛大臣殺害未遂の真相を語ること。 「みなさん! 静かに聞いてください!」 「これから重大な発表があります」 校庭に並んだ生徒たちがざわめく。 「現在、三千堂レイカにかかっている防衛大臣殺害未遂容疑ですが……あの計画はわたしたちで立てました!」 「そう! だからレイカだけを責めるのは間違ってる! 責任はわたしたちにあるし、すべてこの地球をまもるためのものでした!」 戸惑いが広がる。 ここまでは予想通り。 「関係者は、三千堂レイカとここにいる黒水澤カオル、伊部リコ、只野ナミ……」 カオルが淡々と告げると怒号はますます大きくなる。だけど―― 「そしてもうひとり……」 これを聞けば聴衆の反応も変わるはず。 「タイムマシーンの操縦桿を握っていたのが……」 そこまで言ったとき、カオルの後頭部に小銃が突きつけられた。 例の背広男だ。 わたしも、リコも、校庭には華鳴池くんに小銃を向けた姿も見えた。 華鳴池くんにまで…… たしかに華鳴池財閥の御曹司が大臣暗殺に関わっていたとなると大問題。 だけど、大人の都合なんか知らない! 「わたしが言う」 カオルに告げると、何本もの小銃がいっせいにわたしに向きを変えた。 これは……死ぬじゃん。 そう思った瞬間、生徒たちはみんな一斉に片足でけんけんと右に動き始めた。 生徒ばかりか、背広の小銃男たちも!? 片足でけんけんと!? いったいなにを? と思っていたらわたしたちもからだをゆすられるようにして片足を上げて、バランスを取ってけんけんするしかなくなった。 「地面がななめってる!」 リコが叫ぶ。 生徒も背広もわたしたちも斜めになった校庭を端っこへと転がされていく。 ――緊急校内放送。 ――ただいま、地球からの重力砲による攻撃を検出しました。 学園艦の壁に映された見慣れた街並みが消えると、巨大なスクリーンに地球の姿が見えた。いつのまにこんな近くまで! ――学園艦は二分後に落下します。 早いよ! ――全校生徒は机の下などに隠れて、衝撃に備えてください。 それでなんとかなるもんなの!? ――繰り返しお知らせいたします。 って、放送委員! ――ただいま、地球からの重力砲による攻撃を検出しました。 なんでそんなに冷静なの!?8 ドキドキ・東幡豆革命軍
白い壁…… 点滴…… わたし……どうしたんだろう…… 「気がついたようだな」 マスカレードみたいな仮面をつけた男が声をかけてきた。 「ここは?」 「東幡豆革命軍の桃の湯支部だ」 どこ、それ。 「とにかく、無事でなにより。きみたちの船は地球=ボラギノール連合の攻撃で撃墜されたんだ」 ベッドのまわりに4~5人の仮面の子。そのなかに、派手なキャップとサングラスをかけた子がいた。 「スエキチくん?」 「名前を呼んではいけない」 「どうして?」 「ここではみな下駄箱の番号で呼ばれる」 「下駄箱の番号……」 「君は、《への十八番》だ」 「三週間目覚めなかったんだ。あのまま眠り続けるのかと思ったよ」 わたしを案内してくれたキャップの男は言った。 「地球では、ボラギノールと地球の連合政府が好き勝手やってる」 「……具体的には?」 「下着の色、髪型、若者が聞くべき音楽までことこまかく決めて、逆らうと国民カードに刻印が押されるんだ」 「それでみんな顔を隠してるんだ……」 町の小さな商工会議所。 「ついたよ」 そこは彼らの集会場だった。これからリーダーの演説がある。 並べられたパイプ椅子に座るとすぐ、 「かーーーくーーーめーーーいーーーぐーーーんーーーのーーー!」 舞台袖から声が聞こえた。 「諸君!」 マスクとブタ鼻をつけて革命軍リーダーの登場。 「よく集まって来てくれたぁっ!」 「これ、知ってるひとだ」 「彼女は《ぬの五番》。ここではリーダーも番号で呼ぶんだ」 割れんばかりの拍手の中、革命軍リーダーの演説が始まった。 「革命軍の諸君! われわれの目的は、防衛大臣暗殺未遂容疑で捕まった《いの一番》の奪還である!」 《いの一番》。それが三千堂レイカの呼び名だった。 「そして《いの一番》奪還ののちは、地球=ボラギノール連合政府を叩き潰す!」 会場が湧き上がる。 「全力で叩き潰す!」 更に湧き上がる。 「てってー的に叩き潰す!」 異様なほどに盛り上がる。 アパートに帰ると、お母さんは二百円で買った中古のブラウン管テレビでお笑い番組を見ていた。 「あのね、お母さん」 「ん? どうした?」 「わたし、革命軍に入るかもしれない」 「革命軍? いったいなんで?」 「革命軍に入って世界を変えないと、地球はボラギノール星人に乗っ取られちゃうの」 「ハッ。すっかり染まってるな」 「……染まってるって?」 「連中、二言目には必ずそれだ。エグザイルもなんとか四十いくつも、なかみはぜんぶボラギノール星人だ、って」 「だって、そうなんだってば」 「それで、ポキール星人と協力してゲリラ活動をしてるんだろう? どっちが悪者か、よーく考えてみるんだな」 「ボラギノール星人が悪い。みんな言ってる」 「みんながどう言ってるかじゃない。おまえがどう思うか、だよ」 「お母さん、リーダーが『全力で叩き潰す!』って言ったときの会場の盛り上がりを知らないからそう言うんだよ!」 「たいへんだ!《いの一番》が移送されてる!」 テレビのニュースが『少女A』の姿を映す。 事件の凶悪性を鑑み、審判の舞台が家庭裁判所から軍事法廷へと変更された。それにともなって、少女A、つまり三千堂レイカは軍の官舎で監視付きの生活を余儀なくされるという。 すぐに9 ドキドキ・月面基地
2025年。3月。 カオルとリコとわたし、それぞれ別の高校に進学が決まった。 卒業式。列席の卒業生、保護者、その最後尾にレイカの写真を持った夫婦の姿があった。 先生も来賓も、だれももうレイカのことを振り返らない。 「不幸な事故も起きましたが」 たったそのひとことが、レイカに向けられた言葉だった。 あのとき――中二の秋――カオルとリコと絶交してたらなにか変わったんだろうか。ふたりと絶交してレイカのことを庇っていたら。彼女の決断を、変えることができたんだろうか。 それから8年。 月では時空間振動収束装置の開発が急がれていた。 わたしたちはもう何度か繰り返された時間軸を生きているのだという。 その修復のために、当初は人型兵器『少女A』の開発が進められたが、その途上で問題が明らかになった。巨大すぎたのだ。『少女A』に先立って開発された『少年A』はリアクター起動時の次元振動で東京を壊滅させた。 わたしたちはこれを猫の大きさにまで圧縮し、設計し直すしかなかった。 研究室に戻ると、入り口のまえに白い少女の影があった。 少女はわたしの姿を見留めると踵を返し、廊下の奥へ。 彼女の姿を見たのはこれでもう三度目。おそらく、三千堂レイカの幽霊。 あのとき助けられなかったことを恨んでるんだ。 サバトの完成には目処が立ってきたが、それで時空間異常を修復するには、それを10年前の過去に送る必要があった。 かつてわたしはタイムマシーンに乗ったことがある。 あのタイムマシーンがあれば、いまの世界を修復することができる。 ポキール星人の遺品を使い、わたしは10年前の父とのコンタクトに成功した。 父はこの直後に不倫を疑われて離婚、更に2年後のポキール星人襲撃で命を落とした。父からのメールを見ると涙がこぼれたが、わたしの目的はあくまでも10年前のわたし。 学校のカッパ像まで連れ出せたら、もっと通信の精度が上がるけど、いまはメールが限界。 ――オカルトには興味ありませんか? ――いや、中学で卒業しました。 ――娘さんは中学生でしたよね? ――ああ、そうそう、友達とコックリさんをやったって話してましたよ。 ――お父さんもコックリさんやられてみたらどうですか? いろいろと知りたいことがあるんじゃないですか? ――そうですね。娘の進路でも聞いてみますか。ほかに知りたいこともない。 父とのコンタクトを終える度に泣きはらした。 翌日は懐かしい来客。 カオルは少し髪を伸ばして、ゆるやかなパーマをかけていた。 「探してたもの、みつかったよー」 と、カッパ像の破片を届けてくれたその左手にはリングがあった。 「もうすぐ結婚式だっけ?」 「うん。家族で食事するだけだけどね」 カオルは少し照れて指輪を手で隠した。 「ナミは華鳴池くんとゴールインすると思ってた」 「ありがとう。でもいまのわたしはAIが恋人」 「ああ、それは残念」 「最近増えてるよ。AIが恋人」 子どもを持ちたいなんて思わなかったら、パートナーはネット越しのだれかでいいし、最近のAIはどんなひとと話してるより楽しいし、頼りになる。 「失敗したかなぁ」 カオルはおなかを撫でてみせた。 「人類滅亡するのに、どうなっちゃうんだろう、この子」 昼間は研究棟で、コードネーム『黒猫』の完成を見守った。 『黒猫』にはもう、地上で消費される電力の7万年分が投入された。 自分の部屋に戻ると、またレイカの姿が見えた。 13歳のままの姿。手首には赤いリストバンド。 わたしを苛むかのような目を一瞬だけ向けて通り過ぎる。 「お疲れのようですね」 「うん。ちょっと」 「なにがあったんですか?」 「結婚ってなんだろう……繁殖して、種を残すためのものだとしたら、それは種の都合でしょう? なんで個人がそんなものに囚われるのだろう……」 「結婚とは純粋にパートナーを得る行為を指します」 「それ、意味あるのかな」 「人間のコミュニケーションには2通りのものがあります。ひとつは他者とのコミュニケーション、もうひとつは自分自身とのコミュニケーション」 「で?」 「他者とのコミュニケーションは言葉によってなされます。人間は言葉を身につけるために、多くの現実のディティールを捨象していきます」 「あ、ちょっとよくわかんない」 「たとえば誰かが『カブトムシを見つけた』と言ったとします」 「ああ、うん、カブトムシ」 「聞いた方は角の生えたカブトムシを想像します」 「ああ、うん、普通はね」 「でもそのカブトムシはメスかもしれません」 「ああ、なるほど。それらが捨象されてる、と」 「そうやって不要なものを捨て、言葉によって選抜した限られたイメージのなかに、コミュニケーションに特化した『自我』が生まれます」 「あー。よくわかんないけどわかった。それが、他者とのコミュニケーションね。自分とのコミュニケーションは?」 「捨て去ったもの、名前のないもの、それらを使ったコミュニケーション」 「小学校の頃に流行ったポーチとか、ガチャガチャで引いたキーホルダーとか?」 「そう。それを通してひとは己が誰かを確定します」 「捨てたもので?」 「そうです」 「うーん。わかんない。わたしの質問、結婚ってなに? じゃなかったっけ」 「その『捨て去ったもの』を話せるのがパートナー。それらは忘れられ、名前をなくし、非言語化されています」 「そうか。よくわかんないけど、要はあれ。子孫繁栄とかは関係ないんだ。だから結婚ってAIでじゅーぶんって感じになってるんだ」 「そうです。だけどそれも間違っています」 「まちがってる」 「AIは全てを知りえます。そしてなにも失いません」 「言うねー、AI」 「だけど人間の本質は、なにを失ったか、です。それが……」 「それが……」 「少年Aであり、少女A」 カオルにもらったカッパ像の欠片に意識を集中させて、過去の自分を探した。 三崎海岸に信号を発見。すぐにコネクション。 「やっと見つけた」 わたしの声に中学生のわたしは戸惑う。 「――あなたは?」 「いろんな言い方があるわ」 「――いま忙しいの。あとでもいい?」 「あなたのお父さんの浮気相手。と、言えば、わたしの話、聞いてくれるかな?」 「――い、いまどこにいるんですか!? 人類は滅びたって聞いたんだけど!」 通信が安定しない。 わたしは大急ぎで用件を話した。 サバトを10年前の地球に送る必要があること。 そのために10年前のわたしの協力が必要なこと。 「――わかった。最後に質問させて」 中学生のわたしから、最後の質問。その質問の内容は忘れたことがない。 「ああ」 「――あなたは……華鳴池テルと結婚してますか?」 その問はずっと胸のなかにあった。自分自身、何度も問い返した。 「残念ながら」 即答。声が途切れる。 「AIが恋人だ」 「――うそ……」 うそじゃない。今では標準的なライフスタイルと言っていいくらいだ。結婚するよりずっと気楽でいい。 「――レイカは? 三千堂レイカ。あの子はどうなった……?」 「三千堂レイカ……あの子は……」 忘れていたけど、そうだ。聞いたんだった。 「――もしかして、華鳴池くんはレイカを選んだの!? わたしじゃなくて!?」 この中学生のわたしの視野の狭さたるや。だけどわたしはいずれ知ることになる。だったら―― 「……自殺した」 少女A……三千堂レイカは偽ザイルとつるんで、万引き、恐喝を繰り返し、ハッピーターンに溺れ、海辺のロッジでうまい棒パーティをエンジョイした朝、冷たい海に身を投げた。 「――まさか……。そんな……」 この世界は分岐を繰り返している。 これを伝えたことでまた分岐の枝が一本増える。 こうして分岐を繰り返せば、いつかいずれかのわたしが世界を救う。 そう信じるしかなかった。 深夜、月震が走った。 人工重力により打ち消された月震の波は最初の振動を伝えたあとは、長周期の緩やかな揺れだけを長く伝えた。強強度電磁波パルス。事故だ。アラートが響く。ブラストドアの閉鎖がアナウンスされる。次の瞬間、人工重力装置に異常、体から重力が消えると同時に建屋は激しく揺さぶられた。 「なにが起きたの!?」 「時空波アクチュエーターのオーバーロードのようです。時空間振動収束装置が爆発しました」 「サバトが!?」 混乱はベース全体に広がった。 火災発生のアナウンス。またいくつかのブラストドアが降り、それはそのブロックの死を意味した。 そこに少女の幽霊の姿があった。 「こんなときにも、やっぱり出るのね」 少女の幽霊……レイカはゆっくりとわたしに顔を向けた。 「もしかして、只野ナミ?」 レイカが聞いてくる。 「そう。只野ナミ。変わってないでしょう?」 「ここはどこ?」 「月面基地。もう人類はここにしかいない。あなたが死んでから10年経ったわ」 「わたしが……死んだ……?」 「ごめんね……恨んでるよね……あなたを止められなかったこと……」 「止められなかったって?」 「あなたは自ら命を断ったの……だからこうして化けて出てるんでしょう?」 「まって! 話がわからない!」 えっ? 「わたしはあなたが過去に戻ってテルの気持ちを確かめるっていうからついていっただけ! 暮井くんのことはショックだったけど、それ以上のことはさっぱりよ!」 あ……。 「もしかして幽霊じゃない?」 「くだらない。またオカルトの話?」 そうか……わたしが人類滅亡後の地球に飛ばされてたとき、レイカは月に来ていたんだ。 「ごめんなさい。ちょっと混乱して……」 そうだ! この機会に! 「まってて!」 わたしは急いで部屋に戻って引き出しを開けた。 そこにはヘアクリップがあった。小学校三年のときにレイカにもらった、いつか返そうと思ってた赤いヘアクリップ。 急いで外に出てレイカのもとに戻ったけど、そのときにはもうレイカの姿はなかった。 「人類はもう、ダメかな……」 部屋に戻って、AIに聞いた。 「論理上はまだ、少女Aが残されています」 「少女A!?」 「時空間の間に消えた少年Aと開発中の少女Aは逆位相で設計されています。その振動が重なるとき、振幅ゼロのスカラー波が生まれ、次元振動波の収束が予想されます」 まさか…… 「どうして教えてくれなかったの?」 「あくまでも論理上の話です。少女Aの起動確率はゼロ除算エラーとなります」 「えっ? でもどうして? 少年Aは起動したはず!」 「この世界に存在しないエネルギーで少年Aはマイナスの空間に転移したと推測されます」 「マイナスの空間!?」 「そう。その跳躍を駆動したもの。それは華鳴池テルが失ったもの。故に、データとして存在していません」 「わかった!」 「それはどういう意味ですか?」 どうって、足りないものを比べてわたしが負けるわけがない! いままでわたし、華鳴池くんが失ったものなんて想像もしなかった。足りないものなんかない完全無欠なヒーローだと思っていた。 だけど……それなら……! 「BGMを!」 「はい。リクエストをどうぞ」 「昭和の歌姫、中森明菜! セカンドシングル! 少 女 A !!」 足元のハッチが開いて、スロープを降りるとパワードスーツが装着される。 通信を一般チャネルへ。フォートレジェンドIDからカオルをサーチ。メッセージ。 「カオル! 援護して!」 「あ、な、なに!? 急にどうしたの!?」 「ごめん、彼氏とイチャイチャしてる最中だった?」 「そ、そんなことは、ええっと……」 図星かよ。 「いまから少女Aを奪取しに行く。防衛システムが作動するから、カオル、遠隔で援護を!」 「またなんか無茶しようとしてる」 「フォートレジェンドをハックしてレイヤー展開する。あとはまかせた!」 加速! 7Gの衝撃が骨を軋ませる。 すぐに防衛システムが展開。 敵機影40余を確認。 「ここはわたしが抑える。あなたは弾を温存して」って、カオルからの通信。 「助かる」 スラスターマニュアル。迫りくるミサイルを寸で交わすと、カオルの放ったマイクロミサイルがそれを捉える。爆風のなかレーダーに映る機影。カオルのミサイルの軌跡。リパルサー点火、加速。 「そっちは生身でしょう? 無理しないで」 「無理なもんか! この程度!」 ――少女A、それはたとえば失くした髪留め。 「少女A、ドックから出しておいたよ」 ――それはたとえばテスト裏の落書き。 「ありがとう!」 ――知らない間になくなったものすべて。 「こっちで操作するから、ドッキングして!」 ――そのすべてがわたしだった。 「わかった! 高度二千、マッハ6まで加速して!」 「了解!」 追加装甲のバックパックから火を噴いて少女Aが月面の空を駆る。 その背後、全スラスターを後方に向けてわたしのパワードスーツもマッハ6まで加速。 「コクピット下につけた!」 「了解、キャノピーオープン!」 ――わたしが名前を捨てたんじゃない。 ――わたしのなかの名前がない部分を、わたし自身が捨てたんだ。 「ボード! 乗り移った!」 「追加装甲パージ! 操作渡すよ!」 ――だけどわたしが失くしたもっとも大切なもの! ――それが! ――三千堂レイカ! ――あなただよ! 「次元リアクター起動!」 ――翔べ! 少女A! この思いで!10 ドキドキ・日本創生記
2月、お母さんと喧嘩して飛び出した夕方の街に、雪が降り出した。 かばんひとつつかんで、部屋着に羽織ったカーディガンの肩には雪が降り積む。 寒いよぅ。 どこか寒さをしのげるところ。そうだ、タコ公園。公園のタコの中なら雪も降らないしひとにも見つからない。 チェーンの音。小さな川沿いの小道も薄っすらと雪が積もる。 街灯が照らし出した暗い空には、ゆっくりと舞い降りる雪が映し出された。 公園には人影がある。どうしよう。 向こうもこちらに気がついた。振り返ったその影は知ってるひと。 同じクラス。窓際のまえから四番目。いつも視界の隅に見ていた、華鳴池くんの姿だった。 「只野?」 「華鳴池くん?」 「なにしてんだ? こんなとこで」 口を聞くのは一年のクラスマッチの準備以来。緊張する。 「うん。ちょっと」 「ちょっとって。寒くないの、それ?」 「うん。寒い」 華鳴池くんをスルーして、タコのなかに潜り込む。 腰を下ろすとおしりが冷たい。 華鳴池くんがタコのなかを覗き込む。 ガタガタ震えながら、わたしは聞いた。 「華鳴池くんこそ、どうしてこんなとこに?」 「わからない。いつの間にかここにいた」 いつの間にか……。 「只野はどうやってここに来たの?」 どうやってって……どうだっけ? 「この町は変なんだ。俺たちが知っている町とは違う」 「どういうこと?」 わたしの記憶は混乱している。 そういえばタイムマシーンに乗って過去に行った気もするし、月面ベースで最終兵器を開発してた気もする。じゃあ、ここは? 「不思議なんだよ、この町」 「そうなの?」 「痩せた相撲取りやら、片翼のミュージシャンやら、でかいドラゴンがいた」 痩せた相撲取り……片翼のミュージシャン……でかいドラゴン…… 「それ……もしかしたら……」 「もしかしたら?」 「わたしが妄想した世界かもしれない」 コンビニでとびっきり泣ける漫画を買った。 「これをどうするの?」 町外れの丘の上に威張りん坊の大きなドラゴンがいた。 「読んで聞かせるの」 ドラゴンに悲しい漫画を読んで聞かせると、ドラゴンは滝のような涙を流し始めて、涙は川になって、ドラゴンは痩せこけた。 「なにこれ」 「ボートがある! あのボートで川を下るの!」 川を下ると涙に沈んだ町があった。 「浮き輪があるからみんなに配る! 華鳴池くんも手伝って!」 「あ、ああ、うん」 浮き輪を配ると町は発展して森が切り開かれて通れるようになった。 次は大きな穴と、大きな岩と、痩せっぽちの相撲取り。 「今度は?」 「ちゃんこ鍋を食べさせる」 相撲取りにちゃんこ鍋を食べさせると、一気に巨漢に戻り、岩を押して穴を塞いでくれた。 「ごっつぁんです!」 次は片翼のミュージシャン。 「今度はどうするの?」 「曲を最後まで聞いたら拍手」 わたしと華鳴池くんとでミュージシャンに拍手を送ると、目の前に天国への階段が現れた。 ミュージシャンはガンフィンガーでウインク、天国への階段をのぼり始める。 「なにこれ」 「わたしたちも早く!」 ふたりで階段に足をかけると、それはエレベーターだった。 「いったいどういうことだ?」 「これ……わたしがこのまえ考えてたミッションと同じ」 「ミッション?」 「ゲームのミッション。どんなのが面白いかなぁって、授業中メモしてたの」 エレベーターを上りきると、天国のような明るい場所に出た。 目の前にはカッパ。 「これも只野が考えたのか?」 「違うと思う……」 カッパは長い棒をわたしたちに差し出した。 「これは?」 「アメノヌマポコカパ」 「ヌマポコ?」 「これでどろどろになった大地をかき混ぜて、これから住むべき島を作るカパ」 「それって、イザナギ・イザナミの……」 「そう。新しく日本を創世するカパ!」 「わかった」 華鳴池くん、適応が速い。 「只野も。ふたりでやろう」 「う、うん……」 やっぱりちょっと照れる。 「こうかな」 わたしがヌマポコのはしっこをちょこんと握ると、 「こっちのほうが力を入れやすい」 って、華鳴池くんはわたしの後ろから、両手でわたしの手を包むようにヌマポコを握った。 海に浮かんだ混沌とした泥をかき混ぜると、滴る泥水が大地になった。 「これでいいのかな」 「次は?」 「大地に降りて、国生みをするカパ」 「国生み?」 島に降りると、巨大なうまい棒がいっぽん立っていた。 「うまい棒だ」 「日本の創世にうまい棒があったんだ」 「あとはふたりの好きにするカパ」 好きにってなにを? 「日本神話ってどうやってたっけ?」 「なんか、よくおぼえてないけど、棒の周りを回って挨拶したの」 ふたりはうまい棒のまわりをぐるっと回って、まずはわたしから、 「華鳴池くん、おはよう」 そうすると華鳴池くんの背後には一面のガーベラ畑が生まれた。 わたしがイメージした通りの景色。 なるほど。これが国生み。 次に華鳴池くんが、 「ああ、只野。おはよう」 そう声をかけると、わたしの背後には広大なアロエ畑が広がった。 荒れた地面に生い茂ったアロエ。伸びすぎて下の方が枯れたアロエ、掘り起こされて転がったアロエ。それは、華鳴池くんから見たわたしだった。 足が震えてうずくまった。 国生みはしばらく休止することになった。 でも国生みって、たしかイザナミは死んじゃうんだよ。日本神話では。 それでイザナギが冥界に迎えに行くんだけど、イザナミの体は腐ってて、地上に逃げ戻って川で身を清めてたら、アマテラスとツクヨミとスサノオが生まれたんだ、イザナギから。 日本神話のこの三柱がイザナギから生まれるんだったら、イザナミって要らなくない? 「国生みなんかしなくても、わたしこのままでいい」 だってここではお腹もすかないし、暑すぎたり寒すぎたりもしない。 となりには華鳴池くんもいるし、ずっとこのままでいい。 華鳴池くんに話すと、華鳴池くんもそれでいいって言ってくれた。 カッパによると、国生みなんかしなくても国は生まれるって話だった。 「コロンブスが生まれてなくても、アメリカ大陸は発見されてるカパ」 それってなんか、人生の意味考えちゃう。 「だから、国生みをしてもしなくても、なにも変わらないカパ」 「じゃあ、なんのためにするの」 「難しい質問カパ」 そういうとカッパは、両手で首をくるくるとまわして、ポンッとはずした。 華鳴池くんとわたしとでギョッとしていると、中からタコが出てきた。 「心配いらないカパ。ポキール星人はタコ型をしてるカパ」 脱ぎ捨てたカッパの宇宙服? みたいなものは普通に喋ってる。 「ワレワレ本来のコミュニケーションは言葉ではなく、エピローグ ドキドキ・続・下駄箱事件
自転車置き場にチャリを滑り込ませ、スタンドを蹴ってカバンをつかむ。校舎のわきを駆け足で抜けると、あたまの上をチャイムの音が並走する。昇降口、カオルと鉢合わせて、同時に駆け込む。 下駄箱を開けると、上履きの上に赤い花があった。 ふと廊下のほうを見ると、体を少しこちらに向けた制服姿がある。 華鳴池家の御曹司、テル……。 すぐにピンと来た。 ――昨日の件だ。 「華鳴池くん!」 呼び止めると、少し戸惑った顔がふりかえる。 「フォートレジェンド!」 昨日マッチングされたへっぽこくん。あれ、華鳴池くんだ。 「こんどアイテム取りに行くの。カオルと。あなたも来ない?」 たったいま鉢合わせたカオルが、不思議そうな顔を向ける。 「えっ? どうしたの? なに?」 カオルが戸惑う。 「ま、まさかの逆ナン?」 って、まあ、それに近いかも。 「いや、でも。俺、下手だから。いいよ」 華鳴池くんはうつむいて背中を向けるけど。 「いいんだよ! 下手でも!」 もう教室へ走る生徒もなくなった昇降口。 どこから来たのか、足元にスルスルとサバトが忍び寄る。 「足ひっぱっても悪いし」って、華鳴池くん。 あーあ、もう。 一時間目は遅刻だ。 でも、知るもんか! そんなこと! 「だいじょうぶだよ! わたし、未来のプロゲーマーだから!」 「にゃあ!」あとがき
このたびは《告白と戸惑いのロンド》読了いただきありがとうございます。 今作はKindleでもリリースしているのですが、こちらはライト版です。 6万文字程度の予定で書き始めて、最終的には10万文字近くまで膨れ上がったのですが、当初の予定のとおり6万文字まで刈り込みました。 短いぶんとてもテンポが良く、なにもわからないままに場面が遷移することもあると思いますが、実を言うとこの急展開、10万文字版でも大差ありません。もともと高速展開だったものが更に速くなってるんですが、そも無駄なエピソードが少ない作りになっているので、短くするのも至難の業でした。 と、いうわけで、このバーションではあとがきも短めで終わりたいと思います。フルサイズの作品に興味があれば、ぜひKindle版の方を!⚪
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